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書評コーナー

『さあ目をとじて、かわいい子』(サリー・ニコルズ 作/杉本詠美 訳)

狂おしいほどに愛を探し、愛を求め続ける、少女の物語(大久保真紀・評)

2025.04.25

「あたしはママが大好きだったけど、ママはあたしがきらいだった。あたしは邪悪だから。あたしは悪魔の子だから」

ママからの虐待がきっかけで5歳のときに保護され、里親の家や児童養護施設を転々として生きてきた11歳のオリヴィアは、勝ち気で、一筋縄ではいかない少女だ。

里親の家に飾ってあるものを全部壊したり、ベッドでおしっこしたり、さまざまなことをしでかす。そういうことをすれば、その家から追い出されることが分かっていても、そうしてしまう。

今度連れて来られた16番目のアイヴィー家では、その家の子どもたちと少しずつ仲良くなっていくが、18世紀に建てられたその屋敷に幽霊の気配を感じ、オリヴィアは徐々に恐怖を募らせていく。一見ホラーのように物語は展開していくが、その間にオリヴィアはアイヴィー家に来るまでにどんな体験をしてきたか、自分自身が何をしてきたのか、どう感じてきたのかを少しずつ告白していく。

オリヴィアのような少女が目の前にいれば、「とんでもない子」「イヤな子」と感じる人も少なくないだろう。だが、オリヴィアのような子どもは日本にもたくさんいる。

私は、1ページ目からオリヴィアの中に実在の「さっちゃん」の姿が見え隠れして、ハラハラドキドキしながら読み進めた。私が出会ったとき、さっちゃんは8歳だった。オリヴィアと同じように保護され、児童養護施設で暮らしていた。乱暴で、ブランコに乗りたいと思うと「どけや!」と言って同級生を突き飛ばす。一緒に出かけた先でトイレに行きたいと言うので「どこかな~」と探そうとすると、「分からないのに言うな。このボケが!」と激しい言葉を投げつけてくる子だ。

だが自分に自信がなく、自分でもどうしていいかわからない。お母さんが恋しくて仕方ないけれど、何度も何度も期待を裏切られ、心の中に大きな嵐を抱えていた。さっちゃんは大人を信用できなくなっていた。

人を信用できないのはオリヴィアも同じだ。だが、オリヴィアは専門里親をしているリズに対しては悪態をつきながらも心を寄せている。1年半しか一緒に暮らせなかったが、「リズとの生活は楽しかった」と吐露する。

リズは、オリヴィアが何をしても「でも、わたしはあなたが大好きよ」と言い、「しかったりしないけど、やったことの責任はとらせる」。リズを好きになる気持ち、リズが好きになってくれるのはうれしいが、オリヴィアは逆に不安で仕方がない。捨てられたらどんなにつらいかがわかっているからだ。だから過度な期待はするなと自分に言い聞かせる。

アイヴィー家に来た後もリズはオリヴィアのことを気にかける。しかし、オリヴィアは幽霊の気配に惑わされ、とうとうとんでもない事件を起こしてしまう−−−−。幽霊の正体が何だったのか、そして、オリヴィアはその後どうなったのか。それは読んでのお楽しみに。

でも私には最後に一筋の光が見えた。オリヴィアが自分で考えて行動する。どんなにオリヴィアがかわいそうでも、彼女の人生が悲惨でも、だれもオリヴィアの人生を代わりに生きてあげることはできない。リズにもできない。そう、どんなに苦しくても自分の人生は自分で生きていかなければならないのだ。

「あたしはわざと悪いことをしてんの」と言い放つオリヴィアに、「そう? じゃ、あなたは悪いことをする子ってわけね。でも、だから悪い子っていうことにはならないわ。やってることは悪い。だけど、人間ってもっと複雑なものよ」と答えるリズ。

この物語は、オリヴィアが狂おしいほどに愛を探し、愛を求め続ける物語でもある。子どもたちだけでなく、児童福祉に携わる人をはじめ、子どもにかかわるすべての大人たちに読んでもらいたい。そして、考えてほしい。

もしあなたの前にオリヴィアが現れたら、さて、あなたはどうしますか。

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