信田家の子どもたち、ユイ、タクミ、モエには、重大な秘密があります。それは、3人のママが、実はキツネだということ! ママの親族のキツネたちがやっかいごとをもちこむので、一家はしょっちゅうトラブルにまきこまれています。
最新刊『夢の森のティーパーティー』は、ユイが〝お菓子の家〟の夢を見たことからはじまる物語。いったいどんな事件が待っているのでしょうか? 作者の富安陽子さんにお話を伺いました。
──「シノダ!」シリーズは今回で11作目ですが、前作の『指きりは魔法のはじまり』から3年ぶりの新刊になりました。
「古事記」を細かく読み直して『絵物語 古事記』を書いたり、新しいヤングアダルトのシリーズをスタートさせるために、明治期の資料を読みあさったりで、ハッと気づいたら、「えらいこっちゃ! 『シノダ!』を書かなきゃ!」という感じでした。
──たくさんの読者から「『シノダ!』シリーズはもう終わってしまうんですか?」と聞かれたそうですね。
はい。あちこちの講演会でも、読者の方に聞かれました。そうやって「シノダ!」シリーズを待っていてくださる方がいらっしゃることは本当にうれしく、ありがたいことだなあと思います。
「シノダ!」は私にとっても愛着のあるシリーズです。信田家のみんなや、キツネの親戚たちともすっかり顔なじみみたいで、だからこの物語を書いているときは、ホームグラウンドに帰ってきたような、懐かしさと幸福感があります。
これからも続けていきたい、たいせつなシリーズです。
──この巻のテーマは「夢」ですが、富安さんは実際におもしろい夢をよく見られるそうですね。
そうなんです。職業病かなあ? このまえはオバケ退治をしてまわるオバケ屋の夢を見ました。
「オバケ、おるかね、おらんかねえ」って口上をとなえながら、あちこちを流して回って、声がかかると、その家に行ってオバケをつかまえるんです。
そのオバケ屋は、つかまえたオバケのしっぽにひもをつけて、たばねて持ってるんだけど、それが白い風船を浮かべてるように見えて、すごくおもしろかったです。
──夢で見たことが創作に影響することもあるのでしょうか?
オバケ屋の夢もそうでしたが、イメージが鮮やかで、目がさめてからも夢の情景が目に浮かぶような場合は、絵本にしたくなりますね。実際、夢をもとに作った絵本も何冊かあります。
あと、物語のラストをどうしようか悩んでいるときにも、よく夢にヒントをもらうことがあります。
こうなるともう、職業病っていうより特技かもしれませんね。
──「シノダ!」シリーズは、大庭賢哉さんのイラストも魅力的ですが、今回の本の中で好きな絵があったら教えてください。
まずは、もちろん表紙。なんたってカラーですから! 大庭さんの描かれる表紙は、いつも色彩が豊かで、これから物語が始まる期待と予感に満ちていて、「ああ! いいなあ!」って心から思います。
本文の挿し絵も全部すてきなんだけど、特にいつも感心してしまうのが、ユイたちの何気ない表情や動きのとらえ方です。
物語の不思議な情景を描いてくださる筆力もすばらしいのですが、例えば登校前のユイが鏡の前で髪の毛をゴムでしばっているシーン(p.25)とか、信田家のリビングのひとコマ(p.245)とか、なんでもない日常を切りとって、ちゃんと絵になる場面に仕立ててくださる。そこが大庭賢哉さんのすごいところだなあと、いつも感服してしまいます。
──最後に、この最新巻ではどんなところを読者のみなさんに楽しんでもらいたいですか?
今回は夢の世界が舞台ですから、予測のつかない展開がユイたちを待ち受けています。
「なぜ、こんなところにお菓子の家が?」
「どうして、ここに、夜叉丸おじさんが?」
「このカラスは何者?」
「この黒猫って、いったい……?」
つぎからつぎへと現れては、みんなを惑わせる幻のせいで、ユイたちはだんだん夢と現実の見分けがつかなくなっていきます。
そして、じつはそれこそが、ユイたちをこの夢の世界に閉じこめようとする魔物のねらいだったのです。
この第11巻は「シノダ!」シリーズの中でも、とびきり不思議で、めちゃくちゃで、スリリングな物語にしあがりました。
みなさんもどうぞ、幻にだまされずに、ユイたちといっしょに、夢の森からの脱出に挑戦してください。
──ありがとうございました。「シノダ!」シリーズがまだまだ続くと聞いて安心しました。明治時代が舞台になるという新シリーズも楽しみにしています。
富安陽子
1959年、東京に生まれる。『クヌギ林のザワザワ荘』により日本児童文学者協会新人賞、小学館文学賞、「小さなスズナ姫」シリーズにより新美南吉児童文学賞、『空へつづく神話』により産経児童出版文化賞、『盆まねき』により野間児童文芸賞、産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞。『やまんば山のモッコたち』『キツネ山の夏休み』『ぼっこ』『天と地の方程式』『絵物語 古事記』などの作品がある。