「絵本をどんな風に読んだらいいですか?」ときかれることがあります。
読みかたを気にしているのかと思って、「ふつうに読んだらいいですよ」とこたえると、「ふつうに読んでもきいてくれない」と悩みを持っている人がいるようです。
「ごはんをモリモリ食べてほしいのにあんまり食べない」「せっかく作ったのに食べてくれない」「外で元気に遊んでほしいのに、すぐに『抱っこ』とせがまれる」
いろいろな「困った」がある。たしかに、ごはんを食べないと困るし、子どもが遊ばないというのも困る。でも、何か食べているから大きくなっているし、まったく遊んでいないというわけがない。「困った」の内容が、「親の期待通りにならない」ってことだとしたら、親の期待通りにならなくてこそ、子育てはおもしろい!と、わたしは思ったりします(自分が子育てしていたときのことは、棚に上げていますが!)。
どうして子育てって、いろんなことで悩むんでしょうね・・・・・・
絵本を読んでいるのにきいてくれない……、これこそ絵本を好きな子になってもらいたいという親の期待が大きい。絵本は教育的な効果がありそうだし、情操教育にもなりそうと思うのかもしれない。それに、たしかに子どもと対話するのに、絵本がとってもいいツールなのは、まちがいない。
でも、どうして子育てって、こんなにいろんなことで悩まなくてはいけないのでしょうね。
「這えば立て、立てば歩めの親ごころ」という言葉があるけれど、「ゆっくり大きくなっていいんだよ」と子どもには伝えたい。
きょうきいてくれなかったら、あした読んでもいい。好きになってもらいたい本だったら、子どもの見えるところにディスプレイしておくのもいい。読んでいる途中でいなくなったら、きっとほかのことに興味がうつったってこと。好奇心がいっぱいなのだから、それもいいこと。子どもの行動には、きっとなにか意味がある。それを、わかってあげられるといいですね。
絵本を読む時間帯や、選ぶ絵本にもポイントがあるかも?
そうは言っても、なにかできることがあるとしたら・・・・・・。まわりが動いてなくて気が散らない、寝る前ならきいてくれる確率が上がるかも!
となりに座って読んでもいいし、ひざに抱いても、対面でいっしょに見ても。ときには、つかれちゃって寝ながらだとしても(これは目が悪くなる可能性があるので、おススメはできませんが・・・・・・)。
きいてくれないのは年齢や興味に合っていないということもあるかもしれません。あかちゃんだったら、経験が少ないので、顔がでてくる絵本を喜びます。
なんでも、いやいやという時期の子どもだったら、言うことをきかない子が登場する絵本も人気があります。絵本のなかに、お母さんが言うことをちっともきかない子が出てくると、ちょっと照れくさそうに笑う子もいる。「自分のことみたい」ってわかっているんだなあと笑ってしまうことも。
子どもの気持ちをつかむ絵本『ノンタンぶらんこのせて』
お母さんは登場しないけれど『ノンタン ぶらんこのせて』(キヨノサチコ 作)は、子どもたちに人気があります。
「ノンタン ノンタン、ぶらんこ のせて」と言われて、「だめ だめ、まだ ぼく、ちょっぴりしか のってないんだもん」と、ちっともかわろうとしないノンタン。そのいたずらそうな表情もかわいいのだけれど、もちろん、かわってもらえない子たちは怒ります。
『ノンタン ぶらんこのせて』の世界におとなは登場しません。「順番を守りなさい」「いつになったらかわってあげられる?」なんていうおとながいなくても、子どもたちどうし(動物たちどうし?)で、ちゃんと思いを主張し合いながら、最後はみんなで数を数えて交代することができます。子どもの気持ちをつかんでいる絵本は、ちゃんと最後まできいてくれる気がします。
それから、「保育園の先生が読むとちゃんときいているのに、わたしが読んでもきいてくれない」という話をお母さんからきいたことがあります。これについては、保育園とちがって「今は見たくない」という主張ができるのも家庭のよさだと思います。
読みかたは、お父さんやお母さんが好きに読んでだいじょうぶ。子どもは、大好きなお父さんやお母さんが読んでくれるのがうれしいのです。思いっきりいじわるなノンタンになって、「だめ だめ、まだ ぼく、ちょっぴりしか のってないんだもーん!!」と口までとがらせて、この本を読んでいるお父さんを見たことがあります。読んでもらっている子は、それはそれは、うれしそうでした。
この絵本は、「おまけの おまけの きしゃぽっぽ、ぽーっと なったら かわりましょ!」なんて歌まで出てくるのがまたいい。子どもたちが喜んで見る絵本をさがしてみてくださいね。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、生協・パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。保育・幼児教育をめぐる情報を共有するサイト「保育Lab」では、「絵本大好き!」コーナー(https://sites.google.com/site/hoikulab/home/thinkandenjoy/picturebooks)を担当している。保育園長・児童センター館長として、子どもと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けてきた。現在は執筆を中心に活動中。