1冊の絵本を読み終わると、小さな指を1本たてて、「もっかい」とリクエストされたことが何度あったろう。
0歳の子でも「おしまい」と言って本を閉じると、あわててはいはいしてきて、同じ本をわたしのひざに置く。「もっかい読むんだね」とひろげると、うれしそうににっこり笑う。
年少クラスでは、わたしがテラスからもどってくると、「もっかい、よんで」と言わんばかりにさっき読んだばかりの本が、わたしのいすの上に置かれていたことを思い出す。
年中クラスでは、初めて読んだ本を子どもたちが気に入ったようなので、次の日も読もうとしたら、「しってる!」、「もうよんだ!」と言い出した。「じゃあ、ちがう本にしようかな」と言うと、あわてて「だめー!」とちゃんと座りなおして聞く姿勢になり、しばらく、毎日同じ本ばかりを読むことになったり。
子どもたちがおもしろがる理由を探るけど・・・・・・
子どもたちが、くりかえしくりかえし読んだ本は手あかで黒くなり、厚みが増している。セロハンテープで補強をしなければならないくらい何度も読まれている本があると、「この本のどこがおもしろいのだろう?」と、子どもたちがおもしろがる理由を一生懸命考える。
「ここだな」とわかる本もあれば、ひとりひとりおもしろがるところがちがうので、残念ながら、「わたしは、このおもしろさがわからないなあ」とがっかりすることもある。
くりかえすことで、子どもたちは成長している
「いないいないばあ」を楽しむ時期の子は、記憶することができるようになり、予測したとおりのことが起きることを喜ぶ。それから、転んでも転んでも、起きあがって歩こうとする時期がある。気に入ったおもちゃをずっと大事にしていたり、同じフレーズばかりをおもしろがって言っていたりする時期もある。
どうも子どもたちのなかで、「くりかえす」って意味のあることで、そのことでまちがいなく成長しているようなのだ。
絵本を読み終えて、「もっかい」と言ったら、また読んでもらえる経験をすること。それから、「もっと見たい!」という意欲や「おもしろい! 大好き!」という気持ち、「結果を得られて満足する」という充実感。こういうことは、子どもたちにとってとても大事なことだと思うのです(くりかえしや「いないいないばあ」を好む、子どもの発達については、興味深い研究もされているので、調べてみるのもいいかも!)。
「もっかい!」には、できるかぎりつきあってあげるのがいい
なので、子どもの「もっかい!」には、できるかぎりつきあってあげるのがいいのだと思います。
忙しいときには「きょうは3回ね」と、あらかじめ約束したり、「あしたまた読むから大丈夫だよ」と、「もっかい」を次の日にまわしたり、お父さんやお母さんがイライラしないように、子どもの気持ちとじょうずに折り合いをつけてくださいね。
子どもたちに「もっかい、よんで!」と言われたり、「あの本がいい!」と言われて、何度も読んだ本に、『たぬきのじどうしゃ』(長新太 作)があります。
この絵本では、たぬきのおじさんが車に乗ってでかけると、川の中からかえるのかいぶつがでてきます。そのかいぶつにつかまってしまったとき、子どもたちはドキドキした顔をする。でも、おじさんがおなかをぽんぽんとたたいたり、「けいてき」をぶうぶう鳴らしたりするのがおもしろくて、みんなけらけらと笑いだす。最後、おじさんの車はつぶれてまんまるになってしまい、「この じどうしゃは どうやって はしるのかしら」と、読者に投げかけて終わる。長新太さんらしいナンセンス絵本。
なんと言っても、その、おなかをたたいて、けいてきをならすページを、何度も読まされると大変なんです!「ぽんぽん ぶうぶう ぽんぶうぶう ぽんぶう ぽんぶう ぽんぶうぶう・・・・・・」。この言葉が、太字でページいっぱいに書かれています。
大変だけど、気がついたら「わたし、この本読むのじょうずになったんじゃない?」って満足感を味わえるかも!! そんなこともおすすめの一冊です。
安井素子(保育士)
愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。児童センター館長として、日々子どもたちと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けている。