舞台は、ある森の中の小さな村。ピーという精霊が住むその村には、ときどき美しい歌が聞こえてきて、その歌声を聞くと、人々は幸せな気持ちになるのでした–––––。作者の田島征三さんは、ラオスの森の本を15年間で4回も現地に訪れ、取材を重ねたといいます。
今回は、現地に伝わる精霊や伝説をもとにした物語絵本『森の歌がきこえる』をご紹介します。

小さな村に、不穏な変化がおとずれる
村人たちがつつましく暮らす、ある森の中の小さな村。自然にあふれたこの村には、ときどきどこかから風にのって美しい歌声が聞こえてきて、人々を幸せな気持ちにしています。また、森にはピーという精霊たちが住んでいて、村人たちはピーをおそれ、敬っていました。
ところがある時、村に見知らぬ男がやってきて、村人にお金や珍しい食べ物をくばり、こんなことを言いました。
「さあ、みんな、村のまわりの木をぜんぶきりたおし、〈金もうけの木〉をうえるんだ」

これを聞いて反対したのは、村に住む少年ノイ。森で、病気のお母さんに飲ませる薬草や食用の野草をとったり、狩りをしたりし暮らしていたノイは、村の自然を守ろうとしますが、お金や食べ物に目がくらんだ村人たちは、男の命令に従ってしまいます。
少年ノイのあやまちと、村をおそう嵐
森にあった木が切りたおされたことで、ピーたちは森を去り、動物たちもいなくなりました。ノイは薬草を、遠くの森までといけなくなりました。
そんなある日、ノイは、森の奥で美しい女性が歌をうたいながら織物を織っているところを目にしました。その素晴らしい織物に心を奪われたノイは、自分を見失い、無我夢中で織物を盗んでしまいます。

その日から村には、美しい歌声が聞こえてこなくなりました。村人たちの気持ちはとげとげしくなり、言い争いが絶えなくなってしまいます。さらに、荒れ果てた村をみたピーたちの怒りによって、村を大雨と嵐がおそい……。
すっかり変わってしまったうえに嵐におそわれた村は、どうなってしまうのでしょうか? そして、ノイがおかしてしまったあやまちは、どうなるのでしょうか?
田島さんの絵と、ラオスのアーティスト・インシシェンマイさんのオブジェの力強いコラボレーション
この絵本を描くにあたり、15年間で4回もラオスを訪れ、取材を重ねたという田島さん。ラオスの人々が敬っている精霊ピーの存在と、取材の中で聞いた、美しい機を織る女性の伝説から、この物語を思いついたのだそうです。
絵の中にコラージュされている多数のオブジェは、ラオスのアーティスト、ルートマニー・インシシェンマイさんが手がけたもの。人形劇も手がけていたというインシシェンマイさんが作る森の精霊のオブジェには、摩訶不思議な魅力があります2人の力強いコラボレーションが、物語をいっそう迫力あるものに仕上げています。

田島征三さん(右)とルートマニー・インシシェンマイさん(左) ©Atsushi Sakai
昔話のような、神秘的な合作絵本。ぜひ絵本をひらいて、その迫力を感じてください。