8月27日は宮沢賢治の誕生日、今年は没後85年にあたります。37年間という短い生のなかで、百数編の童話を書き、数多くの詩を残した賢治。多くの人が、幼少期のどこかしらで、その童話のいくつかに出会っていることと思います。大人になって読むとまたちがった味わいのある、奥深い賢治の世界。今回はその童話のいくつかを、偕成社から刊行している賢治の本を通してご紹介します。
読み物で楽しむ宮沢賢治
偕成社文庫では、1冊に複数の賢治童話を収録した「宮沢賢治童話集」を3冊刊行しています。つづけて読んでどっぷりと賢治の世界につかるもよし、気の向いたときに1編ごと読むのもよしです。よく知られた作品から、ぜひ読んでいただきたい作品まで、幅広く収録しています。
表題作ほか、「狼森と笊森、盗森」「注文の多い料理店」「カイロ団長」「雁の童子」などを収録。小学校高学年から。
〈ピックアップ〉銀河鉄道の夜
孤独な少年ジョバンニが、夜空の星の中を「銀河鉄道」に乗って旅をする物語『銀河鉄道の夜』。宗教思想に触れる部分もあり、少々難解な面もありますが、列車に乗って星座をめぐるという体験それだけでも、読者の心をつかんではなしません。地上とは全く異なる不思議がおこる、光に満ちた星の世界。「ここではないどこか」へ行きたくなったとき、ぜひこの本を手にとってみてください。
表題作ほか、「猫の事務所」「シグナルとシグナレス」「グスコーブドリの伝記」などを収録。小学校高学年から。
〈ピックアップ〉風の又三郎
山間の村の学校にやってきた転校生。みなはその見慣れない姿に、地元に伝わる神の子「風の又三郎」ではないかと疑い、好奇の目で迎えます。転校生との交流を通じて、子どもたちの心の揺れを描きます。「どっどど どどうど どどうど どどう」のフレーズが有名な作品。
表題作ほか、「どんぐりとやまねこ」「やまなし」「よだかの星」「虔十公園林」「オツベルとぞう」「いちょうの実」「雨ニモマケズ」などを収録。小学校中学年から。
〈ピックアップ〉いちょうの実
いちょうの木を母に、銀杏を子に見立てて、秋のおわりの旅立ちを描いた作品。「ぼくなんか、おちるとちゅうで目がまわらないだろうか」「あたし、どんなめにあってもいいから、おっかさんとこにいたいわ」いちょうの実たちがこれからの旅への不安や期待を言いあう姿がかわいらしい! 自然に心を寄せて作品を描いた賢治ならではの世界が広がります。
絵本で読む宮沢賢治
日本の気鋭の画家たちが絵本の挿絵を描く、「日本の童話名作選」シリーズにも、宮沢賢治の作品が多数収録されています。
注文の多い料理店(島田睦子 絵)
山奥で道に迷った2人の若い紳士は、「西洋料理店 山猫軒」と書かれた西洋造りの家にたどりつきます。お腹をすかせた2人が、扉をあけるとそこには「当軒は注文の多い料理店ですから、どうかそこはご承知ください。」の文字。その言葉どおり、扉を開けるたびにおかしな注文が書かれていますが、「西洋料理店」の看板にすっかり傾倒した紳士はすべてを良いように解釈して注文にこたえていきます。そうするうちに、なんだかあやしげなことに……。さて、2人の運命は?
ちょっとした皮肉もこめられた、一度読んだら忘れられない作品です。
猫の事務所(黒井 健 絵)
猫の第六事務所で書記としてはたらくかま猫は、仕事熱心で気の利く猫でもあったのですが、夜かまどの中に入って眠る癖があるために、いつもからだが煤できたなく、ほかの3人の書記からは嫌われていて……。
自分は頑張っているつもりなのに、なぜか空回りばかりしてしまう、ということ、ありませんか? ぐさりと胸にささるストーリーながら、最後は大きな救いが待っています。黒井健さんの繊細な絵が、物語へ引き込みます。
水仙月の四日(伊勢英子 絵)
ひとりの子どもが、雪のつもるなか、家路をいそいでいました。太陽はさっきまでまばゆい光を放っていましたが、この辺りは今日は「水仙月の四日」––––おそろしい雪婆子が、雪童子や雪狼をかけまわらせて、猛吹雪を起こす日だったのです。吹雪の前からこの子どもをみていた雪童子は、なんとかこの子を守ろうと、吹雪をおこしながらも奮闘します。東北の風土から得た賢治の物語を、伊勢英子さんが幻想的なイメージで描きます。
漫画で読む宮沢賢治
「アタゴオル玉手箱」などで知られる、ますむらひろしさんは、「銀河鉄道の夜」「カイロ団長」「洞熊学校を卒業した三人」を漫画化しています。
特に「銀河鉄道の夜」は20歳の頃に読んでその難解さに一度は投げ出し、そのあと漫画化の話をうけるにあたり「難解さの向こうにあるものを見届けたい」という気持ちで、描いたのだとか。「銀河鉄道の夜」は未完成の作品と言われていて、賢治が最後まで推敲を重ねていました。この漫画版では「最終形」と言われている一般的に知られているストーリーと、「初期形」をいわれるその前のストーリーの2つが描かれています。
いかがですか? このほかにも様々な作家がそれぞれの思いや解釈で絵を描いた作品があります。ぜひお気に入りの賢治童話をみつけてみてくださいね。