8月15日は、終戦の日。そして8月6日、9日は、広島・長崎に原爆が投下された日です。毎年8月になると、多くの人が「戦争と平和」について考えます。
偕成社でも、戦争と平和をテーマにした本を多数刊行しています。きょうはその中から、それぞれちがう視点からえがかれた4冊をご紹介します。
原爆にあった、ちいさな女の子。絵本『まちんと』(松谷みよ子 作/司修 絵)
1冊目は、松谷みよ子さんの絵本『まちんと』です。
原爆にあったちいさな女の子は、トマトを口に入れてもらうと、「まちんと、まちんと(もっと、もっと)」と欲しがりました。母親はトマトを探しに町に出ますが、焼けおちた町にトマトはなく、戻ってみると女の子は息をひきとっていました。
そして女の子は鳥になり、今も、「まちんと、まちんと」となきながら飛んでいるのです––––
心にささる言葉、司修さんが魂をこめて描いた絵が、その凄惨さや悲しさを、子どもにも大人にも強く訴えかけます。
松谷みよ子さんは、刊行時このように書かれています。
(前略)はっと気がつきました。戦争を語りつぐということは説明することではないのだと。ともすれば私たちは説明し、教えようとしているのではないでしょうか。実感の重みこそ求められているのに。
そのあと、文庫にきた小さな子にきかれました。わたしたちにわかる戦争の本ないの? なるほどと思いました。
こうした中からこの絵本は生まれました。その重みからしたたる実感をと願いながら。
広島で被爆したのち、アメリカに渡った女性の半生を追う『シゲコ! ヒロシマから海をわたって』(菅聖子 著)
2冊目はノンフィクション。笹森恵子さんの半生を紹介する『シゲコ! ヒロシマから海をわたって』です。
シゲコが原爆にあったのは、13歳のとき。ひどいやけどを負い、指がくっつき、頰は皮膚がはがれてピンク色になり、くちびるはめくれ上がり、と、その体には辛いあとが残りました。
それでも、シゲコはそうした悲しみに負けずに前へ進みます。外出するとき、人に見られて傷つかないようにと、家族はマスクをするようシゲコに言いましたが、「かくしとったら、一生かくさんといけんようになる」と、思いきってマスクを外しました。たくさんの人に見られ、その視線に傷つけられながらも、シゲコは自分の顔を隠しませんでした。
シゲコはその後、縁あって、やけどをアメリカで治療するプロジェクトのメンバーとなり、渡米します。アメリカで彼女たちは「ヒロシマ・ガールズ」とよばれ、歓待をうけました。プロジェクトを進めたノーマン・カズンズ氏との交流から、のちに再びアメリカに行って看護師を目指します。
8をこえた現在もアメリカに住んでいる恵子さん。各地で戦争や原爆を語りつぐ。アメリカにいると、「原爆は戦争をやめるために必要だった」という考えの人に会うこともあります。それでも、たくさんの人々、とりわけ子どもたちとふれあうとき、彼女には強いエネルギーがわくのです。
力強く、あかるく生きる恵子さんから、パワーをもらえる一冊です。
アメリカの高校生による、原子爆弾の是非のディベートを描く『ある晴れた夏の朝』(小手鞠るい 著/タムラフキコ イラスト)
3冊目は、先月発売されたばかりの新刊『ある晴れた夏の朝』。アメリカ在住の小手鞠るいさんによる読み物です。
アメリカの高校に通う15歳のメイは、先輩たちから、夏休みにおこなわれる公開討論会への参加を求められます。テーマは、広島・長崎に落とされた原子爆弾の是非について。肯定派、否定派、それぞれのメンバーは、日系人のメイのほか、アイルランド系、中国系、ユダヤ系、アフリカ系と、そのルーツはさまざま。メイは、逡巡しながらも、このイベントに参加することを決めます。そしてそれが、彼女の人生を変える大きなきっかけになります。
物語は、肯定派・否定派が交代に発表を行う討論形式ですすみます。重たいテーマでありながらとても読みやすく、同時に、原爆に対するさまざまな視点に立って深く考えることもできます。
★作者の小手鞠るいさんのインタビュー記事も公開しています。
作家が語る「わたしの新刊」
今も広島に残る、原爆をたえた木々を学ぶ。『広島の木に会いにいく』(石田優子 著)
4冊目は、人ではなく「木」から原爆を考えるノンフィクション読み物、です。
いま広島は、ゆたかな海と山に囲まれ、たくさんの人がにぎやかに暮らす街になっています。街の中にはたくさんの木々があり、その暮らしに寄りそっています。その木の一部は、実は、原爆をたえて生き続ける「被爆樹木」です。
原爆が投下されたとき、その幹や葉で人々を支えてきた被爆樹木。著者の石田優子さんは、木の声を聞こうと現在の広島の街を歩きます。
被爆樹木にはプレートがついていて、その木が被爆樹木であること、種類、爆心地からの距離、かんたんな説明が書いてあります。木の根を見ると、爆心地側の根のはり方が少なく、反対側に多く根がはっているのがわかったりします。1本1本の木に、原爆の記憶、そのときから現在までの歴史が現れているのです。戦争を経験した方が亡くなられたあとも、木がその歴史を伝えてくれる……被爆樹木は、戦争の遺物という役割も担っています。
長年被爆樹木を見守ってきた樹木医の堀口力さんのほか、被爆者の方々など、木に思いを寄せるさまざまな人々も登場します。
巻末には「被爆樹木マップ」が掲載されています。実際に足を運び、木と向き合うことができます。ちがった視点から戦争や原爆を考えるきっかけになる一冊です。
いかがでしたでしょうか? それぞれちがったアプローチで戦争や原爆について考えることができる4冊。合わせて読むと、よりこのテーマへの理解が深まるかもしれません。この夏、ぜひお手にとってみてくださいね。