『だれよりも速く走る 義足の研究』の著者、遠藤謙さんは、乙武洋匡さんが義足で歩くプロジェクト「乙武義足プロジェクト」の発起人です(くわしくは、本のコラムをどうぞ)。2022年5月16日、このプロジェクトの集大成として、乙武さんが100メートルの歩行に挑戦しました! 舞台は東京オリンピックが記憶にも新しい、新国立競技場。大きな挑戦をレポートします!
「こんなにたいへんなことになるとは、プロジェクトがはじまった当初は思いもしませんでした」
ふだんは生活のほとんどを車いすでこなす乙武さん。筋肉を使うこともすくないので、重たい義足を持ち上げたり下ろしたりしながら歩くのはかんたんなことではありません。この4年半のあいだ、こりかたまった身体をやわらかくするためのストレッチや、階段を自分の足で上り下りするハードなトレーニングなど、地道な準備をつづけてきました。
雨上がりの新国立競技場、練習のパートナーで理学療法士の内田直生さんにかかえられ、乙武さんはスタートラインに立ちました。そして、大きくひとつ深呼吸してから、歩きはじめました。
「ゆっくり!」「がんばれー」
乙武さんが歩くと、まわりからしぜんと声があがります。そんな声援と拍手に後押しされるように、一歩一歩、ゆっくりと着実に歩みを進めていきました。「はじめは立つことすらままならなかったんだよ」という乙武さん。日本科学未来館で達成した自己ベストの66・2メートルをこえて、どんどん進みつづけます。とちゅう、すこしバランスをくずしそうになる場面もありながら、目標の100メートルを大幅にこえて、なんと117メートルの歩行に成功しました!
歩ききったあとは、まるでマラソンを走ったあとのよう。乙武さんは息を整えてから、こんなふうに語りました。
「義足をつけて、すぐに歩けるようになったわけじゃない。これだけ歩けるようになるまで、4年半かかりました。でも、歩けた。むずかしかったけど、不可能じゃなかった。テクノロジーと、ぼくらの努力と、みなさんの支えで、不可能だと思っていたことが、可能になりました。あきらめないってだいじですね。だれもがあきらめなくてすむ、そんな社会にしていきたいです」
(文・編集部)