この本は、菅野静子さんが自分の体験を自分自身で書いた本です。
菅野さんは1926年生まれ。今の10代の人の「ひいおばあさん」くらいの世代でしょうか。
菅野さんは生後9か月で、南の島テニアン島にわたりました。家族が開拓移民団に入ったからです。なにもないジャングルで家を建て、畑を拓き、一家は、懸命に働きますが、やっと生活が安定したかに思えた頃には、島に戦争が迫っていました。
10代になっていた菅野さんは、テニアンの近くのサイパン島で働いていました。激しい空襲がはじまり、つぎつぎに倒れる人々を目にした菅野さんは、傷ついた人のために働こうと思い立ち、山中にある野戦病院をめざします。
そうして、たどりついた野戦病院では、こんな光景がひろがっていました。
……重症患者ばかりが、みうごきもできないほどいっぱいに埋めつくしていた。どの患者も血と泥にまみれて、うめいている。もし地獄というものがあるとすれば、きっと、こんなところにちがいないとわたしは思った。(本文より)
テントもなにもない地面に、けが人がただ寝かされているだけ。まさに地獄のようです。でも、これは70年ほど前に菅野さんが目にした現実です。わたしたちのひいおばあさん、ひいおじいさんも、同じような体験をしていたのかもしれません。
菅野さんは、このあとさらに凄まじい体験をすることになるのですが、太平洋戦争の激戦地といわれるサイパン島で生き残り、この本を書きました。
思いだすのも辛いはずの体験を、克明に書いたのは、きっと自分の見たことを、戦争のことを、たくさんの人に知ってほしいと思ったからだと、わたしは思います。
そして、戦争を体験した人が減り、直接話を聞くのも難しくなりつつある今だからこそ、この本があってよかったと思いました。
菅野さんが書き残してくれたこの記録を読んで、戦争と平和について考えてみませんか?
(編集部 佐川)