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〈書評〉

『時間色のリリィ』(朱川湊人 著)

直木賞作家・朱川湊人の初の児童文学はとんでもなく挑戦的!(金原瑞人・評)

 小学校5年生のロミ(御子柴弘美)は、同じ塾に通っている評判のイケメン、園内くんに呼びだされて(なぜか、そのとき、園内くんはおでこに10円玉くらいの大きさの丸いシールをくっつけていた)、公園にいく。そこへ銀色のジャンパースカートをはいた、金髪と見間違えるくらい明るい茶髪の女の子が登場。「わたしは、リリィだよ。大魔法使いリリィ」と名乗る。そのうちわかるのだが、使える魔法は3つ。気持ちが伝わるシールを利用できて、小鳥に変身できて、動物とお話しができる、これだけなのだ。その子はわけあって、「ミコミコぷろだくしょん」をさがしているらしい。

 結局、ロミは園内くんや親友のミュー(岡嶋美羽)といっしょに、リリィとつきあうことになるのだが……この全然、魔法使いっぽくない、どこかおかしい女の子は何者なのか、その鍵を握る「ミコミコぷろだくしょん」とはなんなのか。

 そのうち、ある小学校の校庭から、雷おこしの缶が掘り出される。開けてみると、なかには画用紙に描いたマンガが入っていた。それも「ちゃんとコマ割りしてあって、お話しになってる」。つつんであった新聞紙は昭和50年3月2日のもの。そのうえ、そのマンガは合作で、そのうちのひとりは園内くんのおばさんで、もうひとりは……という、いきなりの、意外な展開。

 昭和50年? そういえば、リリィも、「わたしの好きなキャラメルが、1箱14粒入って50円なんだよ」といって、「ガマグチ」から、蝶ネクタイをしめた男の人の絵がついている500円札を取り出したり

 この話にさらにロミのおばあさんまでからんできて、それだけでなく、ロミがそれまで鉄壁だと思っていたミューとの友だち関係も微妙にゆらいできて、わっ、どうなるんだろう、と思っていると、それに追い打ちをかけるかのように、突然、髪も服も黒い「くらやみリリィ」が登場。まわりを大混乱におとしいれる。

 イエローカードが数枚飛んできそうな破天荒でナンセンスで……おもしろすぎる斬新なストーリー。読者はついていくのが大変と思いながらも、喜んでついていく。ただ、途中で空中分解してしまわないか、それが心配だ。しかし、空中分解してぶっこわれそうになったときからの、さらなる展開が素晴しい。園内くんのおばさんとロミのおばあさんの物語、ロミとミューの物語、大魔法使いリリィとくらやみリリィの物語が、見事に重なって、落ち着くべきところに落ち着く。とんでもない力業に、読み終わったときは、思わずため息をついてしまう。

 え、園内くんはどうなるのかって? ううん。ライオンにはなれそうもないね、というところで話は終わります。

 かつて、日本では島崎藤村、北原白秋、宇野浩二、芥川龍之介、佐藤春夫といった作家がじつにおもしろい子どもむけの作品を書いた。作者の朱川湊人さんにも、これから次々に挑戦的な子どもむけの作品を書いてほしいと思う。


金原瑞人(かねはらみずひと)

1954年、岡山県に生まれる。法政大学教授、翻訳家。おもな訳書に『かかし』『のっぽのサラ』『ジャングル・ブック』『宝島』『幽霊の恋人たち』『不思議を売る男』『墓場の少年』『武器よさらば』『バージャック—メソポタミアンブルーの影』『バージャック—アウトローの掟』など多数。

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