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〈書評〉

『地図で見る 日本の地震』(山川徹 文  寒川旭 監修)

関東大震災・南海トラフ地震・富士山噴火が連続した苦難の時代も!? 過去の地震に学ぶ、防災の本(大木聖子・評)

「地震」って聞くとどんなことをイメージしますか? 壊れた建物? 津波が町を飲み込むようす? 「防災」はどうですか? 備蓄に家具の固定、避難所の確認と防災訓練。それとも「備えてもムダ、なるようになる」なんて気持ちでしょうか。

この本は地震と防災の本です。本文から一部を抜粋しましょう。

「大きな地震があった。国中の男も女もさけびあい、にげまどった。山はくずれて河はあふれた。土佐国では五十余万頃(約12平方km)の田畑がしずんで海になった。」

これは684年11月29日に起きた白鳳南海地震(いわゆる南海トラフの地震)の記述です。720年に完成した日本の古い歴史書『日本書紀』に記されています。地面が揺れて人々が恐れおののいたこと、がけ崩れが起きたり、河川に津波が入ってきたりしたこと、高知市は地震による大規模な地殻変動で沈降したことが読み取れます。1300年以上も前の人々の記録に、地震の特徴も何に備えたらいいかも記されているのです。

こんな記録も見つけました。

「地震が起こった当初、関白(豊臣秀吉)は、かつて明智(光秀)のものだった坂本城(滋賀県大津)にいた。……だが、彼はそのときに手がけていたものをすべてほうりだし、馬をのりつぎ、とぶようにして大坂(大阪府)へ避難した。」(1586年 天正地震)

え、秀吉ちょっとビビりすぎ……確かに地震は怖いけど、部下を放って自分だけ逃げちゃったんだ。

地震への備えを促す多くの本は、理科の目線で書かれています。でも、地震や津波のメカニズムを知って「なるほど、プレートは動いている。よし!家具を固定しよう!」なんて思う人はいないんじゃないでしょうか。防災の本を手にとっても、やることリストがあふれていて、対策に入る前にやる気を失っているかもしれません。

この本は、古文書でさかのぼれる最も古い地震(なんと679年!)から2019年までの地震を、地域別に解説しています。自分の地域では過去にどんな地震があったのか、どうやって発掘されたのか、そして、当時の人々がどんなようすだったのか。

いつの時代も、突然の天変地異で犠牲になった人がいて、その死を嘆き哀しむ家族や友達がいます。当時、つらい思いを抱きながらも、「もうこんなことが二度と起きませんように」と目の前の現実を古文書に記録した人々は、まさか21世紀になっても日本人が地震災害で苦しんでいるとは思いもよらないでしょう。この本は、現代の科学だけではなく歴史の言葉も聞いて、地震と防災について捉え直してみませんか、と私達に呼びかけています。

さてさて、秀吉のことをビビりすぎなんて言ってしまいましたが、もう少し読みすすめると、秀吉が地震対策を気にかけていることがわかります。京都の伏見城を建築中の家臣に、「伏見の普請  鯰大事にて候」つまり「伏見城の建築においては、地震対策をしっかりしなさい」と手紙を送っているのです。天正地震で大坂城に逃げた秀吉は、琵琶湖に住むナマズが地震を起こしたと話したようです。これが地震を鯰に例えた最初のエピソードです。

秀吉の不安は的中し、天正地震から10年後の1596年に慶長伏見地震が起きます。マグニチュードが8に近い規模の大地震で、伏見城の天守閣は崩れ落ちてしまいました。

大きな地震が10年の間に2回も起きたのだから、秀吉も大変だったよね。いや、待てよ。18世紀の始めの頃の方が大変だったんじゃないだろうか。1703年に元禄関東地震(M8.2)、4年後の1707年に宝永地震(M8.6)、そして49日後に富士山宝永大噴火! これって、関東大震災が起きた直後に南海トラフ巨大地震が起きて、さらに富士山が大噴火するってことでしょう?  一体この時代を治めていたのは徳川の誰?

地震学者の私が、地震と防災の本の書評を書きながら、徳川幕府について調べている。小学生の頃、大好きな理科に比べて大量の暗記を迫ってくる日本史が一番苦手だったのに……。

地震も防災も、あなたやあなたが大切に思う人にとって、避けては通れないことです。でも必ずしもメカニズムや防災チェックリストから入る必要はありません。自分の好きなことを入り口にして、近づいてみてください。大地の息吹を感じ、昔の人の声に耳を澄ます方法を、この本から、あなたなりの切り口で見つけてみてください。

んー! それにしても、小学生の時にこの本に出会えていたら、日本史とも仲良くやってこられたろうに!


大木聖子(おおき さとこ)

慶應義塾大学環境情報学部(SFC)准教授。専門は地震学・災害情報・防災教育など。高校1年生の時に起こった阪神・淡路大震災を機に地震学を志す。2001年北海道大学理学部地球惑星科学科卒業、2006年東京大学大学院理学系研究科にて博士号を取得後、カリフォルニア大学サンディエゴ校スクリプス海洋学研究所にて日本学術振興会海外特別研究員。2008年4月より東京大学地震研究所助教。2013年4月より現職。主な著書に、『超巨大地震に迫る-日本列島で何が起きているのか』(纐纈一起教授との共著、NHK出版新書)、『地球の声に耳をすませて』(くもん出版)など。

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今日の1さつ

東京の上野動物園でたくさんの動物がころされて、とてもかわいそうでした。この本で命の大切さを感じることができました。それでも今はパンダのシャンシャンも生まれたので、上野動物園も明るい動物園になったと思います。(10歳)

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