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時間色のリリィ

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2019.08.11

「べつに信じなくっても、いいですよ~だ」

 そう言いながら女の子は、人差し指のあいだについたままだったシールに、フッと息を吹きかけた。その瞬間、シールは空中に溶けたみたいに消えてしまう。

「すごい! 手品、うまいね」

「手品じゃないんだけど……まぁ、そういうことにしておこうかな」

「気に入らないわね、その言い方。手品じゃないんなら、なんだっていうのよ」

「まぁ、かんたんにいうと、魔法よ」

 よりにもよって、とんでもないことを言いだす。この子なりのギャグのつもりなんだろうか。

「ふふふ、魔法って……いまどき、それはないわぁ。小さい子むけのアニメじゃあるまいし」

「アニメって、もしかして“テレビマンガ”のこと?」

「えっ、アニメはアニメでしょ」

 どうも、この子とは話がかみあわない。

「そもそも、あなた、だれなの? わたしになにか用でもあるの?」

「わたしは、リリィだよ。大魔法使いのリリィ」

 女の子は再び腕を組んで、どこかえらそうな口ぶりで答えた。

「また、ふざけて……だから、そんなのは本当にはいないでしょ」

 笑える冗談も、何回もくり返されるとおもしろくない。

「まぁ、いいや。じゃあ、その大魔法使いのリリィちゃんが、わたしになんの用なの? まさか魔法をかけて、ネコにでもするつもり?」

「そんなこたぁ、しません」

 リリィと名乗った女の子は、あいかわらずえらそうにいった。

「ミコミコちゃんは、“ミコ・ミコぷろだくしょん”って知ってる?」

 また、それか。

「その名前は、さっき園内くんに聞いたけど、残念ながら知らないわね。それはたぶん会社の名前でしょ? 小学生のわたしに聞いて、わかるわけないじゃない」

「ううん、“ミコ・ミコぷろだくしょん”は会社じゃないよ。坂江第二小学校の中にあるんだよ」

「坂江第二小学校?」

 坂江小学校なら知っているけれど、坂江第二小学校というのは聞いたことがない。そもそも、そんな名前の学校があったかな。

「よくわかんないけど、とにかく知らないわ。どこかの小学校の中にあるっていうんなら、それこそ区役所にでも電話して聞けばいいじゃない。くだらないことで、人を呼びつけないでよ」

「そんな不機嫌な言い方しなくってもいいでしょ。友だちからミコミコって呼ばれてるっていうから、きっとなにか知ってるだろうと思ったのに」

 リリィは、ほっぺをふくらませていった。

「わたし、そういう言い方をする人、苦手なの。なんだかかまれそうで」

「かむわけないでしょ」

 そうは言ったものの、確実にロミは不機嫌だった。園内くんがわざわざ呼びにきたからなにかと思ったのに、この展開はないだろうと思う。

「本人はそう思ってるんだろうけどね、聞くほうはそんな気になっちゃうものなのよ……もう、いいわ」

 そう言いながらリリィは、スカートの左ポケットから、また小さな粒を取りだした。

「わざわざ呼びつけたおわびよ。ちゃんとキャッチして」

 その小さな粒をリリィが指ではじくと、ロミの頭の上より高く飛んだ。それも2つだ。

 けれど、やはりミニバスケットボールできたえたロミの動体視力は、ちゃんとそれを目で追って、こともなげに2つともキャッチした。見てみると、うすい紙につつまれたキャラメルだ。

「ちょっと! 食べ物を投げちゃダメでしょ」

 そう言いながら顔を前にもどすと––––リリィの姿はどこにも見えなくなっていた。

「あれ? 園内くん、いまの女の子は?」

 となりにいた園内くんにたずねると、ふるえた声で答えが返ってくる。

「いや……ぼくもそっちの粒のほうを見てたから」

「そんなバカな」

 ロミは公園の中を見まわしたけれど、やっぱりリリィの姿はなかった。いくらせまい公園だといっても、ほんの2秒ほどで人が見えなくなるはずがないのに。

「あの子……まさか消えちゃった?」

「そんなはずないわよ」

 ロミは園内くんと顔を見あわせていった。しかし、いくら考えても、あの女の子が見えなくなった理由がわからない。

「いまの子、もしかして」

 オバケだったんじゃないの……とロミが言おうとしたとき、園内くんの顔が、クシャッとゆがんだ。まさに泣きだす一歩手前の表情だ。

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 次の瞬間、世にもなさけないさけび声をあげて、園内くんは走りだした。そのままロミを置いてけぼりにして、公園を飛びだしていく。

「ちょ、ちょっと待ってよ!」

 ロミもあわてて、そのうしろを追いかけた。

(次回更新は8月21日です)

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profile

  • 朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

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2024.10.30

将来の夢が広がる楽しい絵本で、子供達によみきかせするために購入してみました。子どもの夢を後押しするきっかけになるといいなと思います。(50代)

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