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作家が語る「わたしの新刊」

1000年前のシンデレラ・ストーリーを現代によみがえらせる! 『落窪物語 かわいそうな姫君と勇敢な侍女の友情と冒険』

2021.12.23

平安時代に成立したとされる「落窪物語」は、継母にいじめられ、床が落ち窪んだ部屋をあてがわれている姫と、すてきな貴公子の恋をえがくシンデレラ・ストーリー! このお話を、あの手この手で姫君の恋を応援する、侍女・あこぎを語り手に、児童文学作家・花形みつるさんが現代によみがえらせました。花形さんに本作の魅力について伺いました。

「落窪物語」は以前から読んでいたのですか?

最初に読んだのは、小学校の4年生くらいのとき。父が子ども向きに現代語訳された「落窪物語」を買ってくれました。挿絵がとても美しかったのを覚えています。

つぎに再会したのは高校生の時。古典を受験用に編集したシリーズの一冊でした。勉強のためだったので、物語を楽しんだという記憶は残念ながらありません。

今回、侍女の「あこぎ」を主人公にした理由は?

「落窪物語」は日本のシンデレラ・ストーリーといわれています。たしかに、継母に虐待されていた美しく心根の優しい姫君が貴公子によって逆境から救いだされ幸せな結婚をするという展開は、世界のシンデレラ・ストーリー(有名どころではサンドリヨンとか灰かぶりとか、最近ではディズニーのアニメとか)と同じですね。

もちろん、違いもあります。その一つが、世界のシンデレラたちの場合、危機におちいったときに助けてくれるのが、亡き母の身代わりの妖精とか精霊とか(ディズニーアニメでは妖精のおばあさんでした)で、落窪の姫君の場合は、侍女のあこぎという生身の人間だというところです。

魔法の力を借りず、現実の力で危機を乗りこえていく。私は、このリアリティが好きです。だから、リアリティを具現しているあこぎが大好きで、それが侍女のあこぎを主人公にした理由ですね。

かなりライトな『落窪物語』で大変おもしろく読みました。どのあたりにこだわっていますか?

当時の貴族社会の女性は制約の多い人生を生きていました。たとえば日々の生活では、御簾の外に顔も出せないとか。着ている衣装が重すぎるとか。

これでは自由に動くことすらできないじゃないですか。現代のわたしからしたら、「まじ無理」。

だからこそ、あこぎにはガンガン行動してもらおうと思ったのです。姫さまのため、そして自分のため、知恵と体力と気力を総動員して突きすすむ。

当時の貴族社会の女性たちの生きづらい人生の不安や矛盾を吹きとばすようなあこぎの明るさと行動力、こだわったのはそこですね。

当時の生活の解説もイラストつきで入っています

落窪物語」の面白さはどんなところにあると思いますか?

当時の貴族の生活の様子、行事、習慣などが具体的に描かれているところが面白いと思います。

とくに、一夫多妻制(身分の高い男性は複数の妻をもてた)が普通に受けいれられていたことなどは、「落窪物語」のストーリー成立の根幹ですね。

だいたい、姫君の父上が複数の妻を持っていなければ継子いじめもなかったわけだし。

そんな時代にあって姫君の夫の道頼はひとりの女性だけに愛をつらぬいた……もしかして、「落窪物語」の作者は女性だったのでは? なんて想像が羽ばたいてしまう。

ちなみに、作者として候補の方々の名前は上がってはいますが、作者は「不明」とされています。

平安時代に行ったら、どんなことをしてみたいですか。

絵巻物が見たいですね。

平安時代には「源氏物語絵巻」「信貴山縁起絵巻」「伴大納言絵巻」などのすばらしい絵巻物が成立しています。

絵巻物は、芸術としての価値はもとより、当時の人々(貴族から庶民まで)の生活、服装、建築、調度品から食べ物までわかる最高のビジュアル資料です。

今回、わたしも参考にさせてもらい、絵巻物の大ファンになりました。

いま見ても美しいですが、当時はさぞ色鮮やかだったことでしょう。鮮明な色彩で見てみたい。

とくに鳥獣戯画。そのなかでも有名な甲巻(成立したときは独立した絵巻物だったそうですが、後世に損傷や一部が持ちさられたりしたらしい)をカンペキな状態で見てみたい。

でも、平安時代に行っただけじゃ見られないでしょうね、偉いヒトの伝手とかがないと…。

今後も古典でリライトしてみたい作品はありますか?

堤中納言物語に興味があります。

そちらも楽しみにしております。ありがとうございました!


花形みつる
神奈川県生まれ。『ドラゴンといっしょ』で野間児童文芸新人賞、『サイテーなあいつ』で新美南吉児童文学賞、『ぎりぎりトライアングル』で日本児童文学者協会賞、野間児童文芸賞、『徳治郎とボク』で産経児童出版文化賞大賞を受賞。作品に「荒野のマーくん」シリーズ、『アート少女』『Go Forward! 櫻木学院高校ラグビー部の熱闘』など多数。

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