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作家が語る「わたしの新刊」

家族の歴史をさかのぼると必ず戦争がある。あのノンフィクションの名作の著者が描く家族の物語。

2019.07.26

「中国残留孤児」という言葉が生まれる前に、自力で日本の家族を探し、中国からの帰国を果たした青年・城戸幹を父に持つ著者による、父の半生を描いたノンフィクションの名作『あの戦争から遠く離れて』。『じいじが迷子になっちゃった』(城戸久枝 著)はこの本をベースに、子どもにわかりやすい言葉で書き直した作品です。

家族で、家族の歩んだ歴史について、そして、あの戦争について、考えてみるきっかけを提供する作品です。


じいじが迷子になっちゃった––––あなたへと続く家族と戦争の物語

––––『あの戦争から遠く離れて』(2007年/情報センター出版局。現在は新潮文庫刊)はノンフィクションの名作として、著名な作品ですが、子どもむけにあらたにこの内容を書き直そうと思ったきっかけを教えてください。

戦争から74年が過ぎようとしています。中国残留孤児という言葉を知らない人もたくさんいます。戦争でどんなことがあったのか、直接体験者から話を聞く機会もぐんと減りました。そんな中で、自分の小学3年生の息子に、中国残留孤児だった父の話を知ってほしいと思ったんです。

息子が保育園の頃から、父の話は「じいじが迷子になっちゃったお話」として、聞かせていました。ある日、息子から「おかあちゃんのご本、難しくて読めないから、子どもに分かりやすい本を書いて」と言われたんです。息子が5歳の誕生日にプレゼントすると約束していたのですが、時間がかかってしまいました。

––––小学生の子たちにむけて書くことで意識したことなどありますか。

あれだけ分厚い内容を、どれだけ子どもに分かりやすく伝えるのか。遠く離れた戦争のことを、いかに近く感じてもらうのか、というところが、大きな課題でした。読者のみなさんにも、自分が生きる今と重ねながら読んでほしいと思い、母子の語りの部分と、じいじの物語が交互に登場する形にしました。息子曰く「ぼくたちが、この物語の司会をしているんだね」ということなので、そう思いながら読んでもらえると分かりやすいかもしれません。

分量は1/6になりましたので、このお話を読んで、もっと詳しく知りたい、と思ってくださった方がいたら、ぜひ『あの戦争から遠く離れて』も読んでいただけたらうれしいです!
 

––––息子さんにもこの本は読み聞かせされたのでしょうか?

はい、この作品を書き進めながら、同時に息子にも、夜寝る前に、書いた原稿を読んで聞かせていました。すると、とても率直な反応が返ってきます。たとえば、父の本当の名前の一部が分かったシーンなどでは、息子はまるで自分のことのようにガッツポーズをして喜んでいました。一方、ちゃんと伝わっていないところもたくさんありました。そのときは、息子がどうやったら興味をもってくれるのか、何が難しいのかを考えながら、何度も書き直しました。やはり、一番近くに読者がいてくれのは、よかったと思います。

––––息子さんが「じいじのお話」を聞きたがった、ということについて、お父さまの反応はいかがでしたか?

父は、息子のことが大好きです。息子がじいじについて、興味を持つことをとても喜んでくれています。以前、息子が、父が中国で育った村の名前と、養母の名前を紙に書いて渡したことがありました。「そうか。そうか」と目を細めていました。そして、父の話を聞いて、息子の父に対する思いも変わってきたように思います。小学3年生なりに、一生懸命父を理解しようとしているようです。

––––この本でとくに読者に伝えたい点はなんでしょうか?

戦争ってとても遠く離れている。もう戦争の記憶がこれからどんどんなくなっていくと思うんです。でも、今生きている私たちにできることがあります。それは、伝えることです。この本の最後にも書いていますが、この話は、決して他人事ではないんです。中国残留孤児ときくと、ちょっと特別な人かなと思われるかもしれませんが、満州に行っていた、戦争に行っていた、空襲で被害を受けた……家族の歴史をたどると、みんな戦争を体験しているはずです。だから、私たちの家族の物語を通して、ぜひみなさんにも、それぞれの家族の歴史について、考えてほしいと思うんです。

この本は、小学校高学年向けを対象としていますが、中学生、高校生、大学生、大人、みんな読んでいただけると思います。戦争のことなんて、ちょっと難しそう、何をどう考えたらいいのか、よく分からない、重そう、とっつきにくい、と感じる人がいると思います。でも、そんなみなさんにこそ、この本を読んでいただきたいです! 小学校低学年、中学年のみなさんだと、まだ習っていない漢字などがあり、難しいかもしれませんが、息子への読み聞かせを通じて、できる限りわかりやすい言葉で書いているので、ぜひ大人の方には読み聞かせをしていただきたいです。

いろんな世代の人に読んでもらって、あなたの家族の歴史について、知りたいなあと思ってもらえたら、これをきっかけに家族で話をしていただけたら、うれしいです。きっといろいろな物語があると思います。そして、それを、誰かに話してみてほしい。もし可能なら、私にも教えてほしいです。お手紙、メール、何でもよいので。そうやってつながることが、何よりも大切だと思います。

もちろん、大人の人たちからの連絡もお待ちしています。出来るかどうか分かりませんが、たとえばワークショップなどで、子どもたちとそれぞれの家族の歴史を話したり、聞いたりする機会がつくれたらなと思っています。


––––今後どのような活動をしていきたいでしょうか?

戦争のことだけではなくて、歴史や社会で起こった出来事についても、もっとやさしい言葉で伝えることはできないかなと思っています。それから、私自身が体験したことを、小説などでも書いてみたいと思っています。

ノンフィクションって難しいと思われることが多いかもしれないのですが、今回、子どもむけに書いてみて、難しいことをやさしい言葉で伝えることの方が、もっと難しいと思いました。同時に、私自身、やさしい言葉で書くという作業がとっても楽しくて、好きなんだと気づきました。難しい言葉ばかりだったら、聞き流しそうじゃないですか。分からないと言いづらかったり。でもすべて、大人も子どもも知っている言葉にすれば、たとえば、大人と子ども、みんなで感想を言い合ったり、話し合ったりできるかも。

そして、この本を、もっとたくさんの子どもたち、大人たちに知ってもらうためには「あなたが生きている今はあの戦争のあった時代につながっているのだ」と知ってもらうことがとても大事だと思っています。それを、ワークショップなどを開き、インタビュー方法などを教えて、子どもとおじいさんおばあさん、お父さんお母さんで、家族の歴史を知るきっかけになる場が作れたらいいなと思っています。もし、興味がある方がいらっしゃったら、連絡ください!

––––ありがとうございました!


城戸久枝
1976年、愛媛県松山市生まれ、伊予市育ち。徳島大学総合科学部卒業。出版社勤務を経てノンフィクションライター。『あの戦争から遠く離れて── 私につながる歴史をたどる旅』(2007年/情報センター出版局。現在は新潮文庫刊)で大宅壮一ノンフィクション賞、講談社ノンフィクション賞ほか受賞。その他の著書に『祖国の選択──あの戦争の果て、日本と中国の狭間で』(新潮文庫)などがある。一児の母で、戦争の記憶を次の世代に語りつぐことをライフワークとしている。http://saitasae.jugem.jp/

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