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放課後の文章教室

第2回 友情を書く 1

魅力的な文章の魅力とは?

2018.04.25

「書くこと」について、若い人からの質問に、作家・小手鞠るいさんが答えます。

––––ツイッターを使って、友だちを増やしたいと思っています。どうすれば、人の目に留まって、大ぜいの人に読んでもらえるような、魅力的な文章(140文字)が書けるのか、教えてください。以前、ブログをやっていたことがあるんですが、長い文章を書くのが苦手なのと、ブログはだれも読んでくれていないので、むなしくなって、やめました。千葉県在住、現在高3の女子です。

 質問のメール、確かにいただきました。
 どうすれば、人の目に留まって、大ぜいの人に読んでもらえるような、魅力的な文章が書けるのか? 
 私もその答えが知りたいと思いました。
 作家はみんな、知りたがっているのではないでしょうか。どうすれば、本屋さんで人の目に留まって、大ぜいの人の手に取ってもらえるような、魅力的な作品が書けるのか。
 まるで魔法みたいな、画期的な方法があるのであれば、作家は苦労しませんね。もしかしたら、だれでもかんたんに作家になれて、世の中は、作家だらけになってしまうかもしれません。
 魅力的な文章。
 それは、書こうと思って書けるものではないし、どんなにがんばっても書けないこともあるし、書ける方法があるわけでもない。魅力的な文章を書こう、などと思わないで書いた文章が、たまたま魅力的になることもあれば、ならないこともある。そういうことなんだと私は思います。
 どういうことなのか、まったくわからない?
 ごめんなさい。もうちょっと、書いてみましょう。
 たとえば、ある本を読んで感動したとき、あなたは「感動的な文章」に感動したのでしょうか? そうではなくて、その作品の何かが心の琴線に触れ、心を揺さぶられて、あなたは深い感動を味わったはずです。
 そして、あなたに感動を味わわせくれたからこそ、その「文章は魅力的だった」と、言えるのではないでしょうか。
 つまり、魅力的な文章というのは、結果に過ぎないわけです。
 それだけを目的にして、文章を書くことはできない、とも言えるでしょうか。要は、魅力的な文章とは、そこに書かれている魅力的な内容と分かちがたく結びついている。文章と内容を切り離しては考えられない、ということです。
 「魅力的な文章」の「文章」を「人」に置きかえてみてください。
 魅力的な人とは、見た目やファッションだけが魅力的なのではなく、その人の性格、考え方、立ち居ふるまいなどが魅力的であるはず。
 文章も、それと同じことなのです。
 
 さて、せっかく質問をしてくださったあなたに、魅力的かどうか、目に留まるかどうかはひとまず脇へ置いておいて「大ぜいの人に読んでもらえる文章」について、ひとつだけ、ヒントを差し上げましょう。
 大ぜいの人に読んでもらうためには、何をさておいても、わかりやすく書くことです。大ぜいの人、というからには、子どもからお年寄りまで、老若男女がふくまれていますね。あなたは高校3年生ということですが、あなたの書いた文章を、たとえば小学1年生の子が読んでも、何歳も何十歳も年上の人が読んでもちゃんと理解できるように、あなたの言いたいことが相手に伝わるように、まずはそのことを心がけて、書いてみてください。
 そう心がけるだけで、あなたの書く文章はほんの少し、変わってくるはずです。
 小学1年生の子に読んでもらうためには、わかりにくいことば、あなた自身でさえ意味のよくわからないことばは、使えなくなりますね。逆に、今、高校生のあいだだけで流行っているようなことばも、年配者には理解できないかもしれません。
 どんなことばを使えばいいのか、どんなことばを使うべきではないのか、あなたの内面に、ひとつの基準というか、決まりのようなものができてきます。
 あなた自身のつくった、あなただけに通用する決まりでいいのです。
 その決まりがあるかないかで、文章は大きく変わってきます。
 たとえば私の場合には、流行語はできるだけ使わない、ネガティブな表現を避ける、主語を明確に書く、カタカナ表記は必要最低限にとどめる、などなど。まだまだほかにもありますが、あくまでも私の決まりなので、あなたはこれに従わなくていいですし、決まりは、時が経つにつれて、変化していってもいいです。私もかつては、「のだ」「である」は使わない、という決まりをつくっていましたけれど、今はもう廃止しました。
 わかりやすく書かれた文章は、それだけで魅力的です。少なくとも私にとっては、とても魅力的です。まず「読んでみよう」と、私なら思います。
 けれども、最初のほうにも書いたように、読んでみた結果、感動することもあれば、まったくしないこともあります。私にとって魅力的なことが何も書かれていなければ、最終的には、私はその文章を魅力的だったとは、決して思わないでしょう。
 文章とはそういうものです。ひとすじ縄ではいきません。奥が深いのです。

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profile

  • 小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。同志社大学卒業。小説家。詩とメルヘン賞、海燕新人文学賞、島清恋愛文学賞、ボローニャ国際児童図書賞などを受賞。2019年には『ある晴れた夏の朝』(偕成社)で、子どもの本研究会第3回作品賞、小学館児童出版文化賞を受賞。主な作品に『エンキョリレンアイ』『きみの声を聞かせて』『アップルソング』『思春期』『初恋まねき猫』『放課後の文章教室』『空から森が降ってくる』など多数。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。

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