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北の森の診療所だより

第16回

10月 食べる、集める、迎える冬のため

2017.10.20

 ダイエットの季節となった。
 天高くのこの時期、それはないだろうといわれるが、なぜか毎年時の行事みたいになっている。ビールのせいだとつぶやくことにしている。反対に全てが実りの時とばかりに、食べに食べ体重を5割も増やす者、また冬じゅうの食集めに精を出す者などで自然は忙しい。まだ原始時代のなごりか、何を食べてもおいしく感ずるこの時期に、ダイエットとは何とも因果なと思ってしまう。そんなわけでもないだろうが、秋は妙に餌集めに熱中する野生をみるのが楽しい。キトウシの山通いが始まる。


 越冬するシマリスのドングリ集めに3日間もつきあう。「朝もよから」という言葉があるが、10月のシマリスにはこの言葉がぴったり。午前6時30分には巣を出て10〜30分おきに帰ってくる。ほほ袋いっぱいにドングリを入れて。右のほほ袋に2コ、左にも2コ、そして余った先方の空間に1コのドングリ。ときどきそれが落ちかかると片手でおさえて巣にもどるのである。


 シマリスの採集は、品質のいいものを選別して運ぶといわれている。そのためにロシアやモンゴルではその能力を利用して、種子集めをする人々がいると聞く。秋の終わりのいい時期に巣を掘り起こして、良質な種子を得るのだそうだ。それを知って、なんと無慈悲なといおうとして口をつぐんでしまった。私もやったことがあると弁解する。調査のため。北海道大学のA教授の手伝いだった。それでも地下1メートルのシマリスのヒミツの越冬巣を知ったと、大満足した。しかしあれは理不尽であったと、思い出すたびに胸がチクリとする。


 そして知床のヒグマのことを思っている。ヒグマは越冬のために自分の体の中に食べものを残す作戦をとる。食べに食べ、体重を5割も増やすといわれている。皮下に脂肪として貯めるのである。木の実、草の実、キノコ、そして今は魚。この生きものも朝もよからと奮闘する。水に飛び込み両手でサケをかかえてむさぼり喰う。夢中な姿は少し悲しげですらある。
 私は秋の味を横目に少し悲しい気持ちになっている。

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profile

  • 竹田津 実

    1937年大分県生まれ。岐阜大学農学部獣医学科卒業。北海道東部の小清水町農業共済組合・家畜診療所に勤務、1972年より傷ついた野生動物の保護・治療・リハビリ作業を始める。1991年退職。1966年以来、キタキツネの生態調査を続け、多数の関連著作がある。2004年より上川郡東川町在住。獣医として、野生動物と関わり続けている。

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