中国唐代の詩人、柳宗元の漢詩をもとに、ユリー・シュルヴィッツが描いた『よあけ』(福音館書店)に感銘を受け、いつか自分でも夜明けの絵本を描きたい、とずっと思っていたあべ弘士さん。その想いがかなって描きあげた渾身の一作が『よあけ』(あべ弘士 作)です。
あの日、わたしは、じいさんと舟にのっていた
木の葉が赤や黄にそまり、木の実がたわわに実る、美しくゆたかな季節。あの日、子どもだったわたしは、じいさんの舟に乗っていました。猟師のじいさんが、町へ毛皮を売りに行くのについていったのです。
夕闇がせまるころ、岸辺にあがったわたしたちは、焚き火をかこみながら、おじいさんがぼそぼそと語る、森の動物たちの話に耳をかたむけます。毛皮にくるまって草の上に横たわると、空には満点の星空が広がっていました。
明くる朝、鳥のさえずりでわたしが目を覚ますと、あたり一面が霧に包まれていました。
わたしたちはふたたび、あたらしい一日がはじまった自然のなかへ、舟をこぎだします。やがて霧が晴れ、陽の光がみるみるあふれてきて、わたしの目にとびこんできたものは……。
極東シベリアのビキン川の風景を描く
作者のあべ弘士さんは、極東シベリアを流れるビキン川を訪れ、現地に住むウデヘ族の人たちと何度も舟で旅をしています。本作はその時の体験をもとにした絵本です。
霧が晴れ、黄金色の朝日が差しこむまでの一瞬の移り変わりが見事に描かれ、ビキン川の旅であべさんが一身に受けた自然のうつくしさが、そのまま表現されています。
みなさんも絵本を開いて、いっしょに雄大な川の旅にでかけませんか。