楽しいはずの夏休み。もし家族の予定があわなかったり、体調をくずしてしまったりして、これといった思い出もなく最終日を迎えてしまったら……新学期に休み中のできごとを報告しあうクラスメイトを想像して、憂鬱な気持ちになりますね。『9月0日大冒険』(さとうまきこ 作/田中槇子 絵)では、そんな「ついていない」休みを過ごした主人公が、9月0日というふしぎな世界に招待されます。
「きみだけの」大冒険への招待状
8月31日、小学4年生の堀沢純は、最低、最悪の気分で夏休みの最終日を迎えていました。色が白く、「シラミ」なんていうあだなをつけられている純は、今年の夏休みこそは真っ黒に焼けて汚名返上しようと意気込んでいたのに、夏休み早々に喘息の発作がでたり、父親の都合で旅行にいけなかったりで、なんともさえない夏休みを過ごしたのでした。
ところが、その夜。ふと真夜中の12時に目がさめ、部屋の日めくりカレンダーをめくると……そこにはありえない「9月0日」の日付とともに「きみだけの特別な1日 さあ、冒険にでかけよう!」の文字が! だれかのいたずら? と思いつつ、気づけば窓の外がジャングルになっていて……とまどいながらも、純はカレンダーの言葉を胸にきざみ、ふしぎな世界での大冒険に、足を踏み入れます!
恐竜が生きる白亜紀の世界で
夜があけると、そこは純が大好きな、恐竜たちが生きる白亜紀の世界でした。途中、やはりどこへもいけない夏休みを過ごした、クラスメイトの理子と明に出会った純。十分な備えもない中で過酷な環境にほうりだされた3人は、それぞれが知恵と勇気をだして、火をおこし、魚をとり、恐竜から身を守り、さまざまなピンチを切り抜けていきます。
追い込まれた状況では、人間、それぞれの本性が現れるもの。物語では、3人がともに時間を過ごすうちに、これまでお互いに抱いていたイメージのむこう側にある、それぞれの本質的な魅力を発見していくようすも描かれ、手に汗にぎる冒険物語でありつつ、友情物語としても楽しめる、充実の読書体験が待っています。
テンポのよい文章で、あざやかにあなたをふしぎな世界へと誘う、夏の終わりに読むにはぴったりの1冊。ぜひ純といっしょに9月0日へ出かけてみてくださいね。