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作家が語る「わたしの新刊」

自分の”はじまり”の部分を思い出させる「焚き火」を描いた絵本『ダーラナのひ』

2021.11.16

数年の歳月をかけて完成した『ダーラナのひ』は、焚き火を描いた絵本です。幻想的でうつくしいこの世界が、どのようにしてつくられたのか、nakabanさんにお話をうかがいました。
 
 
主人公のダーラナは、どのようにして生まれたのでしょうか。
 
「焚き火の絵本をつくりませんか」といってもらって、いろいろ考えるなかで、「ダーラナ」という名前がまず出てきました。スウェーデンの伝統工芸品・ダーラナホースのダーラナですね。国の暖炉の火を眺めているような雰囲気あるし、南のインドのほうにもありそうな名前でもあるその木や土、石のような手触りのある語感が気に入って、つけました。
 

2019年ごろのラフ。鉛筆で描かれている

 
初期のラフでは、ダーラナは大人の男の人でした。そこからラフをやりとりする中で変化していって、最終的には10〜12歳くらいの女の子になっていった、という感じです。
 
 
ダーラナが旅するところは、どこかの国をモデルにしていますか?
 
ダーラナのモンゴル風の帽子…ユーラシア大陸の、ちょっと寒いところで生まれたイメージですが、旅をしているのは、その大陸の南の果てという感じでしょうか。衣装は、タタール人とか中央ユーラシアの装身具を中心に世界中の先住民の着ているものをいろいろながめながら、コラージュしていきました。
 
ひとり旅をつづけるダーラナ。とても神秘的な印象を受けます。
 
ダーラナは、目のまえの景色と会話できる能力をもっているんです。そういう教えのようなものの中で育って、世界の声をきくことができる。ダーラナでなくても、旅人はそれがないと、さびしさに負けてしまうと思うんです。目のまえの景色と会話をするのは、孤独であることに耐えるための知恵です。
 
画材はなにを使用されていますか。
 
油絵の具を使って描いています。乾くまでに時間がかかるので、全部を同時に進めることになるのですが、設計図としてラフがあるから、それができるという感じですね。
 
今回、色彩設計をふくめたラフをすべてiPadで描きました。はじめてのことで、僕のなかで大きな変化でした。
 

iPadで描かれたラフ

 

油絵の具による本描き

 
たとえば色鉛筆をつかってラフを描くと、色彩計画という面では自分好みの想定内なものになり、そこにあまり驚きはない。デジタルを上手に使うことで、思いもよらなかった色があらわれたりするんです。そういうことを、今回はたくさん試せました。自分の色の好み、色彩感覚からだいぶはみでたようなラフをもとに、しっかりと油絵で描く。なので、出来上がった絵はいつもとちがうなあっていう感じがします。
 

お気に入りの紫色

 
焚き火をみつめるときに経験する、ここではないどこかに心が旅するような、不思議でおだやかなひとときを思い出す絵本でした。
 
詩人の山尾三省に、こんな詩があります。
 

山に夕闇がせまる子供達よ
ほら もう夜が背中まできている
火を焚きなさい
お前達の心残りの遊びをやめて
大昔の心にかえり
火を焚きなさい

(山尾三省『火を焚きなさい』より抜粋)
 
自分の根っこ、はじまりの部分を思い出すという意味で、火をみることはとても大事じゃないかと思います。世界中の先住民も、儀式や瞑想に火を使っていますよね。でも、焚き火そのものは、僕たちの日常から遠ざかってしまっている。あぶないものだから、だめですって。気持ちはわかるんですけど、ちょっとさみしい。
 
子どものころは、叔父の家の庭でよく焚き火をながめていました。火の中に石を放り込んで、熱々になった石をバケツの水に放り込みじゅーってやるのが好きでした。なんだかいけないことをしているような、魔法使いになったような気分でした。
 
でも、最近は焚き火が大人のあいだで流行っているみたいですね。なんだかわかるような気もします。人類にひつようなもののパズルのピースがかけているような気がしていて、みんなが手探りをしている状態で、そのひとつが「火をみつめること」なのかもしれないなと。
 
この絵本を読んだひとが、自分も火を見つめてみようかなと思ってくれたら、すごく意味のあることなんじゃないかと思います。
 

取材のため、海辺で焚き火をした

 
 
ありがとうございました!
 

nakaban
1974年広島県生まれ。旅と記憶を主題とし、絵の中を旅するように風景を描く。絵画を中心に、絵本、アニメーションなどを制作。音楽家のトウヤマタケオと「ランテルナムジカ」を結成し、音楽と幻燈で全国を旅している。おもな作品に『よるのむこう』(白泉社)『みずいろのぞう』(ほるぷ出版)『ぞうのびっくりパンやさん』(大日本図書)『ぼくとたいようのふね』(BL出版)『みなとまちから』『とおいまちのこと』(佼成出版社)など。

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