私はヘビが嫌いです。小学生のとき、マムシに咬まれたことが原因かもしれない。そのときも7月だった。友の哲ちゃんと山の上に立つヤマモモの木を目指して競争となった。近道をするために、小さな崖をよじ登る。そのときに咬まれた。左手の薬指だった。哲ちゃんが鎌を持っていたので、すぐに咬まれたそばを切り、血を出した。二カ所、鎌のあとが今も残っている。クズのつるで手首と腕の二カ所を縛って、走って帰った。途中、哲ちゃんの「竹やんがんばれ」という声までは憶えているのに、その後の記憶は全くない。
気がついたのは二日後。最初に見たのは母の顔だった。そして最初に聞いた言葉も鮮明に憶えている。「みのる、きれいな体になったでー」だった。私が気を失っている二日間に体外に出たもの、中に多数の寄生虫がいたというのだ。マムシの毒で悪いやつはみんな殺されたと、医者は言ったという。「もう悪いものは何もない」というのが、母の結論だった。あれ以来です。ヘビが嫌いになったのは。
ヘビは嫌いな人の目に、ある種の信号を強く送るらしい。私はひと一倍ヘビを見つけるのが早くなった。工事中、ユンボにふまれて死んだヘビを見た。30分後、再び見に行ったら、もう一匹のヘビが寄りそっていた。相手は死んでいるのに、それから30分も一緒だった。恋人らしい。ヘビの気持ちに同情した。
スズメバチの巣が散歩道のわきにある。通る私をいつもにらむやつがいる。ダニがいて、ブヨ、カと役者はたくさんいる。毛虫だっている。そういえばこの月は嫌いな者ばかりが目にとび込んできて、私をからかう。自然の中に住むというのはこういうことだと、笑っている。