「じつはリリィと心をつなげたとき……わたしの頭の中に、マンガの原稿が見えたんです」
どう話せば信じてもらえるか考えながら、ロミはいった。
「なんだか、ピントの合ってない写真みたいだったんですけど……はじめは、病院で見せてもらった『大魔法使いリリィのぼうけん』らしい絵が見えたんです。でも、それが突然に押しのけられたみたいに、『くらやみリリィ』に変わったんです」
一瞬といってもいいくらいの短い時間だったけれど、たしかにロミには、そんなふうに見えた。
「つまり、それはなんらかの理由で、本家のリリィが乗っとられたってことかな」
腕組みをした園内くんが、不思議そうに首をかしげる。
「もしかすると、そうかもしれないけど……だとしたら、『くらやみリリィ』っていうマンガもあったということですよね? でも、リリィのマンガは“ミコ・ミコぷろだくしょん”にしか描けないはずです。べつの人が描いたとしたら、どんなに似ていてもリリィじゃない。でも、あのリリィは、ちゃんとスーパーシューズも使ってました。それを考えると『くらやみリリィ』は、やっぱり“ミコ・ミコぷろだくしょん”が描いた、べつのリリィってことじゃないですか」
まるで名探偵のような口ぶりで、ロミは説明した。
「それに……わたし、きのうから、なんだか心の中に冷たい風が吹いているような気がして、仕方ないんです。大切なミューちゃんがマンガにされちゃったのは悲しいしこわいけど、それとはべつに、すごくさびしいっていうか」
「えっ、そうなのかい」
おどろいたように、園内くんが顔をあげる。
「なんだか時間が過ぎてしまうのが、とっても悲しいような……ミューちゃんといっしょにいろんなことをしたのに、その時間が二度ともどってこないのが、すごくさびしくて……いまはそんなことを考えてる場合じゃないのに、どういうわけか、心の中から追いだせないんです」
話しているうちに、なぜだか、また目に涙がうかんでくる––––泣くつもりなんか、少しもないのに。
「園内くんには、ケンカしたっていいましたけど……じつはリリィが“くらやみリリィ”になる前、同じようなことを感じて、ちょっとだけ泣いちゃってたんです。そこにリリィがあらわれて、わたしがどれだけ悲しい気持ちになっているか、言葉以上にわかるっていわれて……それで、魔法のシールを使って心をつなげたら、いきなりリリィが変身しちゃったんです」
「あぁ、ロミちゃん」
あいづちを打ったミコおばさんの目にも、どういうわけか涙がうかんでいた。おばさんには、悲しいことなんかないはずなのに。
「お願いだから、一度だけ、ギュッてさせてくれない?」
そういいながらおばさんは、立ちあがって両手を広げた。
「えっ、わたし、もう子どもじゃないし、よく意味が」
わからないんですけど……と続けそうになって、ロミは言葉を飲みこんだ。ミコおばさんの顔を見ているうちに、目元からあふれて頰をすべっていく涙の意味が、なんとなくわかったからだ。
(きっとミコおばさんも、同じように感じたことがあるんだ)