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時間色のリリィ

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「ねぇ、リリィって、マンガの中から出てきたんでしょ?」

 ロミがいうと、リリィは少しだけおどろいた顔をしたあと、すぐに笑ってうなずいた。

「ロミちゃん、知ってたんだ……じつはどうやら、そうみたいなんだよね」

「えっ、自分でも知らなかったの?」

「うーん、気がついたら、この世界にいたからさ。自分がどこから来たかなんて、いちいち考えてるヒマもなかったし」

 なるほど、リリィはリリィで大変なんだな––––ロミがそう思ったとき、いきなりリリィが鼻先に顔を突きだしてくる。思わずうしろに下がろうとすると体のバランスがくずれて、ブランコから落ちそうになった。

「ちょっと、なによ、いきなり」

「いま、マンガから出てきたようなヤツに、自分の気持ちなんか、わかるわけがないって思ったでしょう」

 まるでロミの考えをすべて見通しているような口ぶりで、リリィはいった。

「でも、大魔法使いをバカにしてもらってはこまります。ふつうの人間のように言葉で説明したりしなくても、ちゃんとロミちゃんの気持ちがわかる方法がございますので」

「どうして敬語なの」

「こういう話し方のほうが、なんとなくえらそうに聞こえるからです」

 そういいながらリリィは、右手の指をパチンと鳴らした。それと同時に、人さし指の先に丸いシールがあらわれる。

「このシールは、もう、おなじみですね」

「だれとでも友だちになれるシールでしょ」

「はい、そのとおり。では、このシールを使って、ヤギの飼い主のおばさんの心と、ベッドで寝ているおばあちゃんの心をつないでみせたのはおぼえていますか」

「おぼえてるわ。でも、お願いだから、ふつうに話してよ」

 あまりに似合わない話し方なのでリクエストしたのだけれど、リリィは軽く聞きながす。

「あれと同じことをやれば、ロミちゃんがいま、どれだけさびしい気持ちになっているのか、わたしには手に取るようにわかります……はい、ペタリ」

 そういいながらリリィは、自分のひたいに例のウズマキ模様のついたシールを貼った。それから再び指を鳴らして、もう1枚シールを取りだす。

「じゃあ、これをロミちゃんのオデコに貼らせてね」

 いつものリリィの話し方になったのはいいけど、なんだかこわい気がする。

「だいじょうぶだよ、ロミちゃん。おたがいにシールを貼って手をつなげば、心もつながるのよ。うまく言葉でいえないようなことも、ちゃんとわかり合えるの」

 そういいながらリリィは、指先のシールをロミの顔に近づけてくる。やっぱりこわい気持ちは残っていたけれど––––それでもロミは、顔をそむけたりはしなかった。もしかすると、いまの自分のさびしさを、だれにでもいいから知ってもらいたいという気持ちが、ロミの中にあったのかもしれない。

「はい、ペタリ、と。じゃあ、手をつないで」

 されるがままにオデコにシールを貼られ、右手を強くにぎられる。

(ほんとに、だいじょうぶなのかな)

 そう思いながらもロミは、リリィの手を離さなかった。やがてリリィが目を閉じたので、自分も目をつぶる。

「あぁ、そうなんだ……ロミちゃんは、あのお姉さんとお別れしなくっちゃいけないのが、とても悲しいんだね」

 1分もしないうちに、つぶやくようにリリィがいった。

「そして、お別れが、もう始まっているのが、とってもとってもさびしいんだね」

 もしかするといま、自分はリリィに心の中をのぞかれているんだろうか––––少しはずかしい気もするけれど、どうせなら全部わかってほしい気もした。

(わたしはミューちゃんと離れるのはイヤ……ずっとミューちゃんといっしょにいたい)

 そう思ったとき、なぜか頭の中に、マンガで見たリリィの姿が、いきなりうかんできた。やがてぼんやりと全体が見えてきて、それがマンガの扉絵だと気づく。けれど、ミコおばさんのところで見た原稿の中に、こんな絵はあったかな?

 いや、ちがう。

 その絵のリリィの髪は真っ黒で、ご自慢の“時間色”の服も黒っぽい色になっている。手には30センチくらいの細い棒を持っていて、その先には黒い三日月を背中合わせにくっつけたようなかざりがついている。これは……もしかすると魔法の杖?

 ロミの頭の中のマンガ原稿は、まるで闇の中にうかびあがってくるように、ゆっくりと全体が見えてきた。黒くなったリリィの上に書かれたタイトルは––––『くらやみリリィ』。

 ハッとして目を開くと、自分と手をつないでいるリリィの髪の色が、すごいはやさで黒くなっているところだった。時間色の服も、まだ昼間だというのに、夜のような色に変わっていっている。

 つまり、これは––––いま、頭の中にうかんだマンガ通りの姿に、リリィが変わっていっているのだ。

「リリィ、どうしたの!」

 思わずにぎっていた手をほどき、自分のオデコに貼られていたシールをはがしたのは、なにかよくないことが起こっているように思えたからだ。

「わたし、よくわかったわ……ロミちゃんが、どんなにさびしかったか」

 いつもより大人びた声で、リリィはいう。

 よく見ると顔つきも、知っているリリィではなかった。目や鼻の形は同じだけれど、どこか怒ったような、あるいはなにか思いつめているような、けわしい顔つきだ。もしかするとリリィは、別のリリィに“変身”してしまったのだろうか?

 なにがどうなっているのかはわからないまま、ロミは見たいと思っていたリリィの不思議な力を、この10数秒後にバッチリと見ることになる。

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

おばあちゃんが、まじょになったり、ロケットやUFOにのったりしておもしろかったりすごかったりして、あとおばあちゃんがだちょうにのったりしてたのしい本でした。(7歳)

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