別れ道から5分も歩けば、家にたどり着くのだけれど––––1人になったロミは、いきなり途中で右に曲がった。いまの気分のまま家に帰ったら、ちょうど玄関を開けたところで涙がこぼれてしまいそうな気がしたからだ。いきなり泣いたりしたら、ママが気にするにちがいない。
しばらく歩くと、前に園内くんと来た小さな公園が見えてきた。ありがたいことに、だれも遊んでいないようだ。
ロミは公園の中に入ると、小さなブランコに腰を降ろした。それと同時に、きのうのバァバの言葉を思い出す。
「いつか弘美にもわかると思うけど、すごく仲が良かったからこそ、逆に会いにくくなることもあるのよ」
そんなものなんだろうか––––いつか自分とミューちゃんも、そんなふうになったりするんだろうか。
自分のつま先を見つめたまま、あやうく涙をこぼしそうになったとき、いきなり声をかけられた。
「ロミちゃーん」
「うわっ」
顔をあげると、目の前にリリィが、いつもの腕組みポーズで立っていた。
「なによ、いきなり」
「そりゃ、声をかけるときは、そういうもんでしょ。“きょうの何時何分に声をかけます”って、電報打つ人なんていないわ」
「なによ、電報って」
ロミが聞きかえすと、リリィは心底ガックリしたように肩を落とした。
「電報、知らないんだ。まぁ、いいわ。とりあえず……よばれて飛び出て、キンキラリーン! 大魔法使いリリィ参上!」
あらためて、リリィは見栄を切った。
「べつに、よんでなんかいないわよ」
「ううん、よんだよ。すごくさびしいから、すぐに来てって、たしかによんでたよ」
そういいながらリリィは、どこか性格の悪そうな笑いをうかべた。
「ロミちゃん、きのう、あのシールを使ってわたしをよんだでしょ? すぐに追いかえされちゃったけど……で、わたしも知らなかったんだけど、あのシールを使った人とわたしは、しばらく心がつながってるみたいなんだよね」
「えっ、なによ、それ」
知らないあいだに心をのぞかれたような気がして、ロミはあわてたけれど––––考えてみれば“友だちになるシール”なんだから、そういうものなのかもしれない。
「だから、わかったの……ここが、シクシク痛い感じがしたから」
そういいながらリリィは自分の胸元をさすった。それはきっと、いま、自分が感じているものと同じような痛さなんだろう。
そう思うとロミは、深いことを考えるのがめんどうになった。きっと、リリィにしかわからない––––いや、リリィ本人にだって、きちんと全部を説明できるのかどうかあやしいものだ。なにせ、これは魔法なのだから。
「よっこらさ」
まるでおばさんみたいな声をかけながら、リリィはとなりのブランコに腰をおろした。けれど、特に話の続きをするわけでもなく、ただ小さくブランコをこぎながら、座っているだけだ。
「あっ、ロミちゃん、あそこにニャンコがいるよ」
何十秒かたって、やっと口に出したのは、そんな一言。
ロミが顔をあげると、公園の植えこみの中を、白い体に茶色のぶちのついたネコが、ゆっくりと歩いていた。なんだか、ロミたちに見つからないようにしているみたいだ。
「ははぁーん、きっとノラニャンコなのね。すっごく用心してる……でも、こっちからはまる見えなのにね」
たぶんリリィのいうとおり、ちかごろではあまり見なくなったノラネコなんだろう。ずいぶん目つきが鋭くて、ちょっと舌を鳴らしたくらいでは、こっちには来てくれそうにない。
「おーい、ニャンコ~!」
なにも考えてなさそうなリリィが声をかけると、ネコの動きが一瞬止まった。かと思うと、その1秒あとには、すごいいきおいで走りだして、別の植えこみの中に飛びこんで見えなくなる。
「あぁ、行っちゃった……キャラメルあげようかって思ったのに」
「ネコにキャラメルなんか食べさせちゃダメよ」
リリィがとんでもないことをいいだしたので、思わずロミは答えてしまう。
「たぶんネコには、よくないんじゃないかしら」
「そうか……そうだね」
そういったきり、またリリィはだまりこんだ。いったいなにを考えているんだろう。
「ねぇ、どうしてだまってるの?」
また何十秒かが過ぎて、ついにロミの方から切りだす。
「どうしてっていわれても……まぁ、わたしもワンちゃんやニャンコみたいなものだと思ってよ。あの子たちもしゃべったりはしないけど、となりにいるだけでホッとするでしょう? わたしも、そういうのがいいかなって思って」
なるほど、リリィはリリィなりの方法で、自分をなぐさめてくれようとしているんだ……とロミは思ったけれど、じつは人間ではなさそうなリリィに、いまの自分の気持ちなんてわかるんだろうか。