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時間色のリリィ

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 モモとリンゴのクラスメイトであるサナエちゃんという女の子が出てきて、リリィは中条アキラのサインと引きかえに、その子のある願いをかなえようとする。けれど、そのための魔法を学校で習ったのに、すっかり忘れていたリリィは、その呪文がのっている教科書を、こっそり魔法の国に取りにかえろうとする……というものだった。

 “ミコ・ミコぷろだくしょん”の2人が描きあげていれば、魔法の国や学校が出てきて、リリィの世界がぐっと広がりそうな話だったみたいだけれど––––残念ながら、続きは影も形もない。

「3回目は、かなり長い話にするつもりだったのよ。少なくとも、1回目と同じくらいのね。いまになってみると、ちゃんと描いておけばよかったなぁって思うけど……せめてわたしとレイちゃんが、中学生か高校生だったら描けたかもしれないけど、やっぱり小学生には大変だったのね」

 ミコおばさんは、残念そうにいった。

「だから、しばらくはわたしがあずかって、やる気が出たら描くつもりだったんだけど……それがなかなかむずかしくってねぇ」

 大変だと思っていることに手をつけるのは、きっと大人だって、なかなかできないのではないかと思う。

「そのうち、レイちゃんは別の中学に行くことが決まったから、もう2人でマンガを描くこともないかと思って……だから、校庭のすみっこに埋めたのよ」

「中学がちがっちゃうと、いっしょにマンガが描けないんですか」

 ミューちゃんの顔を思いだしながら、ロミはたずねた。

「うーん、いまは携帯とかネットとかあるから、ちがうかもしれないけどね。わたしたちのころは、学校がちがったり、住んでいるところが離れちゃうと、なにかとむずかしかったの。それに、『去る者、日々にうとし』っていう言葉もあるでしょ……だから、“ミコミコ・ぷろだくしょん”は、自然解散よ」

 去る者、日々にうとし––––離れてしまうと、時がたつにつれて、どんどん忘れていくという意味だ。思えば、なんてさびしい言葉だろう。

「おばさんが、1人で描いちゃえば、よかったじゃん」 

 あんまり考えてないような口ぶりで、園内くんが口をはさんだ。

「そういうわけにもいかないのよ。リリィはわたしだけのものじゃなくて、ロミちゃんのおばあちゃんのものでもあるんだから……わたしが1人で描いたら、それはリリィであっても、リリィじゃないの」

 そういいながら、おばさんはロミから原稿を受けとり、書類封筒に入れて、再びサイドチェストの2番目の引き出しにもどした。

「でも、いまになってもどってくるとは思わなかったわぁ」

 ミコおばさんは明るい顔でいったけれど––––なんとなく、ロミは気づいていた。

(きっとバァバとミコおばさんのあいだに、なにかあったんだわ)

 それがどういうことかはわからないが、二人の仲が遠くなるようなことがあったにちがいない。

 そうでなければ、2人で一生懸命に描いたマンガの原稿を、土の中に埋めてしまうはずはないのではないだろうか。なにもなければ、どちらかが小学校の楽しかった思い出として、しまっておけばいいだけのことだ。

 けれど、たぶん原稿を持っていたミコおばさんは、それを自分の手元においておくことが、つらくなったにちがいない。けれど破ったり燃やしたりすることもできなかったから––––最後の手段として、土の中に埋めたのではないだろうか。

 第一、通う中学がちがっても、自転車やバスを使えば、会うことはむずかしくない。だから、“ミコミコ・ぷろだくしょん”そのものが解散してしまったのには、なにか理由があるはずだ。

「ねぇ、ロミちゃん」

 ふとミコおばさんによばれて、ロミは顔を上げた。

「レイちゃんのお孫さんが、わたしのおいっ子の友だちだっていうのには、正直おどろいたけど……これからも、なかよくしてあげてね」

「ちょっと、ミコおばさん! ロミちゃんは、ただの友だちだよ! 別につきあってるとか、そんなんじゃないから……やだなぁ、もう」

 園内くんは顔を真っ赤にして、口をはさんだ。

「なにを取りみだしてるのよ、理央。だから、そういってるじゃないの。2人がつきあったりしてるわけじゃないなんて、そんなの見ていれば、わかるわ。大人をなめたらアカンわよ」

 そんなふうにいわれて、ロミもホッとしたような、ほんの少しだけ残念なような。

「理央はね、かわいい顔してるし、頭も良いみたいなんだけど、子どものころから気が小さくってね……はっきりいって、すごくこわがりなのよ」

「あっ、たしかに園内くんって、こわがりですよね」

「いやいや、なにいってるの、ロミちゃん」

 園内くんはすました声でいったけれど、じつはロミもとっくに気がついている。園内くんは、はっきりいって臆病だ。

 はじめて家にきたときも、飼い犬のビビの声がこわくて離れたところに立っていたし、公園でリリィが消えたときなんか、ロミを置き去りにして逃げちゃったし––––ネタは、バッチリあがってますけど。

「まぁ、少しはビックリしちゃうようなときもあるけど……こわがりっていわれるほどじゃないね」

 なぜか名乗るときのリリィと同じように胸の前で腕を組んで、園内くんは無理やりな感じで笑った。

 

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

東京の上野動物園でたくさんの動物がころされて、とてもかわいそうでした。この本で命の大切さを感じることができました。それでも今はパンダのシャンシャンも生まれたので、上野動物園も明るい動物園になったと思います。(10歳)

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