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時間色のリリィ

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 『大魔法使いリリィのぼうけん』––––その第1話は、遠い世界にある魔法の国の大臣の娘であるリリィが、家を飛びだしてくるところから始まる。じつはリリィは魔法学校の問題児で、きびしい勉強にウンザリしてしまったのだ。

 人間の世界にやってきたリリィは、たまたまテレビで男性アイドル歌手の“中条アキラ”の姿を見たとたん、目からハートが飛びだして、いきなり大ファンになってしまう。どうにか本物を見ようと、あの手この手をつくしてみるのだが、やはり問題児だったリリィの魔法は使い物にならず、失敗ばかりだ。

 そこに、魔法の国からリリィを連れもどしにきた“追っかけGメン”があらわれ、強引にリリィをつかまえようとする。ドタバタタッチで逃げるリリィは、その途中で、ある小学生の女の子たちと知り合いになる。

 メガネをかけて本が大好き、もちろん頭もいい“モモ”と、背が高くてスポーツ万能、小学生にして空手の達人である“リンゴ”のなかよしコンビだ。

 そこでリリィは、ちゃんと使える魔法の1つである“だれとでも友だちになれるシール”を出して、2人のオデコに貼りつける。リリィの親友になった2人は、それぞれの得意技を使って、追っかけGメンの手からリリィを守ってくれるのだが––––最後のページで、とっくにシールははがれていた……というオチがつく。

 じつは自分たちも中条アキラのファンであるモモとリンゴは、シールに関係なくリリィと友だちになっていたのだ。

 それからリリィは、しばらくのあいだ、人間の世界を見学すると決めて、第1話は終わった。

(すごい……ちゃんとおもしろいわ)

 そう思いながら先に進むと、第1回目のあとに、すぐに第2回が始まる。けれど、いきなりページ数は半分くらいになり、背景や絵の書きこみ方などが雑になっているような気がした。

 それでもストーリーは、なかなかおもしろいものだった。

 動物と話せるリリィは、ある日、ノラ犬の“バルト”と知り合う。バルトはいつも弱い者を助けるやさしい犬なのだが、彼をめざわりに思っているノラ犬のグループにねらわれていた。その両方をぶつけて共倒れさせようとたくらんだ性悪猫の“カッツェ”の作戦によって、バルトは一匹でノラ犬グループと戦わなければならなくなってしまうのだ。

 ロミにはノラ犬というのがピンと来なかったが、どうやら45年前には、飼い主のいない犬が街の中をうろついているのは、そんなにめずらしいことではなかったらしい。

 第2回目のストーリーは、はじめてリリィが鳥になる魔法を使ってみせるのが、クライマックスになっている。それでカッツェのたくらみをあばき、バルトとノラ犬グルーブの戦いをとめるのだが––––やっぱり短いと、ちょっと物足りない。

「2回めは、お話が短いですね」

 ロミがなにげなくいうと、ミコおばさんは笑って答えた。

「ねっ、絵も、最初のヤツとはずいぶんちがうでしょ? 正直にいっちゃうと、最初のお話でわたしもレイちゃんも半分くらい燃えつきちゃったのよ。まじめにマンガを描くのって、こんなに大変なんだって、思い知っちゃったのね。だから、2つめのお話に取りかかるのも、すごく時間がかかったの」

 なるほど、最初の1回目に力を注ぎすぎてしまったということか。

 思えば、マンガは読む分にはおもしろいものだけど、描くのは大変だ。きっと地味な作業だろうし、ほんとに好きでなければできないだろう。

「だから2つめは、早く終わるようにページ数も、グッと減らしたの。それでも、ちゃんとオチまでついてるんだから、たいしたものでしょ」

「えぇ、おもしろいです」

 2話でのリリィは赤い小鳥に変身する。けれど最後のほうでカラスに追いかけられて、ひどい目にあうのだ。あわやというところで人間にもどって助かったのはいいけれど、そこが高い木の上だったので、降りられなくて泣きだしてしまう––––と、いうのがオチだった。

(マンガを描くっていうのも、大変なんだなぁ)

 そう思いながら次のページを見る。

「あれっ」

 思わずロミが声を出したのは、その原稿がヘンテコだったからだ。

 リリィとモモの絵はちゃんとインクらしいもので描かれているけれど、ほかの人物や背景が、まだ鉛筆描きのままだ。それも、このへんに誰々を描く……というのを、適当に示してあるだけ。

「きっとわたしもレイちゃんも、欲ばりすぎちゃったのね。2つ描いたら、しばらく休みたくなっちゃって……結局、この物語は、ここでストップしちゃったの」

「えっ、残念」

 バルトやカッツェが加わって、話がすごくおもしろくなりそうだったのに。

「だから、それは下描きのままなのよ。とりあえず、途中までは描いたけど」 

 よく見ると、途中で終わってこそいるものの、ちゃんとストーリーがあった。

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profile

  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

借りて読んで気に入った本は手元においておきたくなり買うことが多いです。この絵本もそのような形で買いました。タイトルも表紙もインパクト大で手に取らずにはいられない。という感じでした。読み聞かせより一人でゆっくりすみずみまでながめて読みたい、そんな本だと思いました。(9歳・お母さまより)

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