「それにしても……なるほど、親子2代で早めに結婚すると、それだけ早く孫の顔が見られるってわけね。きっとレイちゃんは、ひ孫の顔も見られるわ」
バァバのひ孫というと、自分やチー坊の子どもということなんだろうけど、さすがに少し気が早いんじゃないかな。
「あの……園内くんのおばさんは、小学校のころ、うちのおばあちゃんと仲がよかったんですよね?」
そんなに仲よしだったのに、バァバが結婚したことも知らないなんて、ちょっとしっくりこない。
「うん、すごく仲よしだったわよ。でも別の中学に行ったから、小学校のときのことしか知らないの」
ミコおばさんは、少しだけさびしそうにいった。
「本人に聞けばわかるけど、レイちゃんは小学校の近くの団地に住んでたのよ。あ、小学校は、いま、理央が通ってる西木塚小なんだけど、そのころは……」
「坂江第二小学校っていったんですよね」
「そうそう、よく知ってるわね。でも6年生のときだったかな、レイちゃんちは、駅のむこうに家を買って引っ越しちゃったのよ。だからレイちゃんは、卒業するまでのあいだ、40分くらい歩いて通ってたの。大変よねぇ」
たぶん、その家はママが電話でいっていた“西口のほうにある建売住宅”のことだろう。どうせなら小学校を卒業してから引っ越せばよかったのに……とは思うけれど、なにか理由があったのかもしれない。
「そのころは、学区域っていうのがあってね。区立中学の場合は、〇×町に住んでる子はA中学、〇△町に住んでいる子はB中学に行くって、ちゃんと決められてたの。いまは好きな中学を選べるらしいけど……だからちがう中学になってから、レイちゃんとは会わなくなっちゃったの。残念だけど、大人になってからのことなんて、なんにも知らないのよ」
そんな言葉を聞くと、ロミの心にも影が落ちる。バァバとミコおばさんは、そのまま自分とミューちゃんと同じだからだ。
「レイちゃん、元気にしてる?」
「はい、すごく元気です。このあいだも、おじいちゃんといっしょにハイキングに行ってましたよ」
「おっ、元気なうえに、旦那さんともラブラブなのね。うらやまし~」
「えぇ、おじいちゃんとも仲がいいです」
その言葉はウソではないけれど、ロミが見るかぎり、どっちかというと気の強いバァバに、やさしいジィジが合わせているような感じだ。まぁ、大人も、なかなか大変なんだろう。
「話が盛りあがってるところで、ちょっと悪いんだけど」
ミコおばさんとバァバの話を続けているところに、園内くんが割りこんできた。
「じつはロミちゃんを連れてきたのは、例のマンガを、見せてほしいっていわれたからなんだよ。ほら、おばさんが学校に埋めてたやつ」
「えっ、あれが見たいの? やだ、ダメよ、はずかしいでしょ、はずかしすぎて、熱が出る~」
そういいながらミコおばさんは、うすい掛けぶとんをはねあげ、ベッドのはしに座りなおした。
「ほんと、あんなのを他人に見られたら、一生の恥よ……なんていったって、描いたのは5年生のときなんだから」
その言葉とはうらはらに、おばさんはベッドの横にあるサイドチェストの2番目の引き出しを開けて、大きな書類封筒を取りだした。
「はい、これ……ミコ・ミコぷろだくしょんプレゼンツ、『大魔法使いリリィのぼうけん』よ」
「おばさん、いってることとやってることが、チグハグだよ」
園内くんがいうと、ミコおばさんはやさしく笑って答えた。
「そりゃあ、はずかしいから、できれば見せたくないって気持ちもあるけど……ロミちゃんがレイちゃんのお孫さんなんだったら、見る権利があるでしょ。それなのに見せなかったら、イジワルしてるみたいじゃない」
ミコおばさんは書類封筒からマンガ原稿を取りだし、ロミに差しだした。
「これって、ほんとに45年前に描いたやつなんですか」
マンガ原稿を受けとって、ロミは思わず目を丸くした。少し紙がくたびれて、ところどころがうすくきばんだりしているけれど、1年くらいに前に描いたといわれても信じてしまえるくらいに、きれいだったからだ。
「なにせビニールや新聞紙で、厳重につつんでおいたからね。おせんべいの袋に入ってた乾燥剤も、何個も入れておいたし」
それでも雷おこしの缶はさびまくり、いっしょに入れていた新聞紙は湿気で波うっていたらしい。あまりきれいな感じではなかったので、とどけにきた園内くんのお父さんが捨ててしまったそうだけれど。
「じつはわたしも、はじめて見たときはビックリしたわよ。こんなにきれいなままだなんて……45年って、長いんだか短いんだか、わかんなくなっちゃったくらい」
十分に長い時間だとロミは思ったが、口には出さない。
「じゃあ、ちょっと見せてもらいますね」