(きっとリリィともなかよくなったんだろうな……いつのまにか“ちゃんづけ”じゃなくなってたし)
ミューちゃんが一人でリリィを呼び出してしまったことを思うと、どうしても気持ちが落ち着かなくなった。いま考えなくてもいいこと、いま考えちゃいけないことまでが、頭の中でポンポンはねまわって、ロミの心をかきまわしていくのだ。
そのせいとはいわないけれど––––実力テストはさんざんだった。
得意なところは、どうにかできたけれど、少しむずかしい問題でがんばりきれなかった。たぶん、ママがおどろくような点数になってしまったにちがいない。
(きっと、怒られちゃうな)
そう思うと、どうしても心が沈んでしまう。こういうのを“泣きっつらに蜂”っていうんだろう。
塾の本校にある大きな教室で、思わず小さなため息をついたとき、いきなり声をかけられる。
「御子柴さん、テスト、どうだった?」
振りむくと、大きめのバッグを肩にかけた園内くんが立っていた。
「できたか、できなかったかっていう質問なら、できなかったよ……いつもトップクラスの園内くんが、人にそういうこと聞くのって楽しい?」
ついトンガリモードで答えてしまう。
「いやいや、楽しくなんかないよ! いまのは、あいさつみたいなものだって」
「ふーん、へんなあいさつ」
バッグにテキストや筆箱を入れながらロミが答えると、園内くんはおずおずとたずねてくる。
「もしかして、なにか怒ってる?」
「別に……ぜんぜん怒ってないよ」
明らかに八つ当たりしている自分がイヤで、ロミは強引に笑顔を作っていった。
「それで、なにか用?」
「うわっ、ものすごく不自然な表情……あの、御子柴さんは、家の人が迎えにくるの?」
塾の本校は地元から離れているので、家の人といっしょに来る子が多い。いつもならロミもパパかママかのどちらかと来るのがふつうだけれど、きょうは2人とも用事があったので、1人で来た。もう5年生なんだから、そんなこともできなくっちゃ。
「別に迎えにはこないよ。1人でノンビリ帰るつもり」
じつは塾の本校近くに大きな本屋さんがあって、そこはマンガの品ぞろえがいいことで有名だった。もちろんママにはいってあるけれど、帰りにはそこに寄っていくつもりだったのだ。
「それくらいの楽しみがなくっちゃ、わざわざ電車に乗って、テストなんか受けにいってらんないわよねぇ」
マンガに理解のあるママは、そんな風にいって許してくれた。きっとロミの居場所を知らせる携帯の性能を信じているんだろう。
「じゃあさ……」
ロミの答えを聞いたあと、いきなり園内くんは顔を赤くして、口を開いた。
「わ、悪いんだけど……ちょっとだけ、つきあってくんないかな」
「えっ?」
「いや、別に、その、へんな意味じゃないんだよ。ちょっとだけ、いっしょに行ってもらいたいところがあるだけなんだ。だから、つきあってっていうのは、そういう意味で」
やたらとドギマギしながら園内くんはいったけど、見ていてじれったい。
「いったい、どこに行くのよ……まさか、またリリィのところじゃないでしょうね?」
前のリリィの件がなかったら、自分も少しくらいドギマギしたかもしれないけど––––どういうリアクションをするかは、話を全部聞いてからだ。
「ちがうけど、あの女の子が探してた“ミコ・ミコぷろだくしょん”がなんなのか、わかったんだよ。あと、あの女の子の正体っていうか、元ネタっていうか……そういうのも、わかったんだ」
「正体? 元ネタ?」
思わずロミが首をかしげると、園内くんはなにかいおうとしたけれど、うまく話をまとめることができないのか、なにかいいかけては「いや、そうじゃなくって」と言葉を切っては、同じくところをグルグルまわった。その合間に、“タイムカプセル”とか“マンガ”とかいう言葉が飛び出す。