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時間色のリリィ

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 結局、塾の勉強には少しも身が入らなくて、ロミはただ席に座っていただけのようなものだった。ようやく帰る時間になって、カバンにテキストやノートを入れていると、教壇の上から先生がいった。

「あす、本校でやる実力テストは、とても大切なものだから、絶対に遅れたりしないように」

 そういわれて、ロミはハッと思い出した。

 次の実力テストは、塾の本校でやることになっていた。本校は電車で30分くらい離れたところにあって、テストの時間を入れれば、それこそ半日がかりだ。

(ミニバス……また出られなくなっちゃうんだった)

 ミューちゃんといっしょにやっているミニバスケットボールは、5月いっぱいで休むことが決まっている。だからこそ、なるべく休まないで参加したかったのだけれど。

(そのことを、ミューちゃんにいったかな)

 たしか実力テストのプリントを塾でもらった次の日、すぐに話したような気がするけど––––もう1か月以上前のことなので、少し自信がない。

 ちゃんといっておかないと、ミューちゃんが練習のときにこまることになる。2人1組でやる柔軟体操やパス練習のときは、必ずロミと組になるのだから。

 ロミは迎えに来てくれたママの車で家に帰りつくと、すぐに自分の部屋でミューちゃんの携帯に電話をかけた。

「あ、ロミ !  ちょうどよかった! わたしもロミに電話しようと思ってたの」

 つながったとたんに、ロミは机の上においたタイマーのスイッチをいれる。5分以内で終わらせるようにママにうるさくいわれているからだ。本当はお料理のときに使うものだけど、時間を決めて勉強するときや、こういうときにも便利だ。

「えっ、ミューちゃんも? なにか用だった?」

「それがビックリよ! リリィね、本当に小鳥になれたよ!」

「え?」

「きょう、あの呼び出し装置を使って、呼び出したのよ。それでわたしの部屋で、小鳥になる魔法をやって見せてもらったの。そしたら、本当に小鳥になったんだよ! 体が、なんだか粘土を丸めるみたいな感じに縮んでね、あっという間に赤い小鳥になったの!」

 興奮したミューちゃんは、すごく早口になっていたけれど––––ロミはやけに冷静だった。

(ミューちゃん、1人でリリィを呼び出したんだ)

 リリィを呼び出すのは、必ず2人でいるときにするとか、1人のときに呼び出しちゃいけないとか、そんなことは決めてない。それぞれがリリィから呼び出しのためのアイテムをもらったんだから、好きにしたってかまわない。

 でもロミは––––そんなおもしろいことは、必ず2人そろっているときにやるものだと思っていた。わざわざ決めなくっても、それが当たり前なんじゃないだろうか。

「あ、もしかして、わたしが1人でリリィを呼び出したのを怒ってる? ごめんごめん、どうしても我慢できなくなっちゃってぇ」

 ロミが黙ってしまったのをへんだと思ったのか、ミューちゃんはいった。

「ロミはわたしの性格、よく知ってるでしょ? おもしろそうなことがあったら、すぐにやってみたくなっちゃうのよ。小さいころから、そうだったでしょ」

「うん、知ってる……それでミューちゃんは、よく先生に叱られてたよね」

 たしかにミューちゃんは、そういう性格だけど––––はじめてリリィを呼び出すんなら、2人いっしょのときにしてほしかった。もちろんリリィが小鳥になるのを見るのも。

「ロミも今度、見せてもらいなよ。本当にアニメや特撮物みたいだったよ。あの子、正真正銘の魔法使いだわ……いやぁ、ビックリした」

 そのビックリを、2人でいっしょに体験したかったのに。

 カラスや猫におそわれないような場所でなら、リリィは小鳥になる魔法を見せてくれるだろうけど、それで自分1人がおどろいても、あまりおもしろくないはずだ。ミューちゃんといっしょに見て、いっしょに目を丸くして、いっしょにさわぐのにくらべれば。

(次回の更新は12月11日です)

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

最近絵本よりもYouTubeを見ていた息子ですが、この本はキャッキャッと笑いながら楽しんでいます。何故かふくろうさんの舞踏会のお面が大好きらしいです。(2歳・お母さまより)

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