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時間色のリリィ

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(それにしても、こまったなぁ……)

 リリィの登場は、それなりに楽しかったけれど、例の悩みのほうがまだ解決していない。

塾に行く日にちが増えるから、ミスバスケットボールを休まなくっちゃならなくなったのを、ミューちゃんに教えることだ。そればかりじゃなくて、これからは遊べる時間も減るし、買い物に付き合ってあげるようなこともできなくなるだろう。とにかく、いろんなことが変わってしまいそうなことを、ちゃんと伝えておかなくてはならない。

 ミューちゃんは地元の公立中学校に行くので、受験はしない。ほかの友だちも、そのまま地元の中学に行く子がほとんどだ。じつをいうとロミにも、そうしたい気持ちがあるのだけれど、目標にしている私立中学にあこがれてもいる。

最初にパパとママに受験をすすめられたときは、のんびり遊べなくなるからイヤだな……という気持ちのほうが強かった。けれどママといっしょに学校見学に行ったり、入学希望者用のパンフレットをながめているうちに、自分もそこで勉強してみたいと思うようになった。これから、かなりがんばらなくっちゃいけないけど、やってみようと心に決めている。

ミューちゃんも応援してくれているけれど、ミスバスケットボールまで休むといったら、やっぱり少しは怒るかもしれない。そう思うと、なかなか言いだすタイミングがつかめずにいた。

(リリィの友だちシールを使えば、便利なのに)

 リリィのシールで自分とミューちゃんの心をつなげば、言葉で説明しなくても、きっと伝わるにちがいない。

そればかりか、それを自分がどれだけ済まなく思っているか、ミューちゃんと遊ぶ時間が減って、自分もどれだけ残念に感じているか––––そんなことまで、すべて伝えることができるのだ。

もちろん口でいえればいいのだけれど、言い方によっては十分に伝わらなかったり、まちがった伝わり方をしてしまうことがあることを、すでにロミは知っていた。それでパパやママ、友だちと何度かケンカになったことがある。もちろんチー坊とも。

(ミューちゃん、どうして、あんなにイヤがったんだろう)

 八木谷のおばさんに、おばあちゃんの心の中をのぞかせてあげたあと、リリィが冗談っぽく、「なんだったら、おたがいの心の中をのぞいてみる?」とロミたちにいったとき、ミューちゃんはすごくイヤがった。その気持ちもわかるけど、あんなにイヤがらなくのてもいいのになぁ。

(わたしとミューちゃんは……親友のはずなのに)

 それともミューちゃんは、ロミのことを、そんなふうには思っていないのだろうか。

(いやいや、そんなことはない。わたしとミューちゃんは、きょうだいみたいに仲のいい親友なんだ)

 そう信じているからこそ、ロミは勇気を出すことにした。いわなくっちゃいけないことを後まわしにしていたら、どんどんいえなくなってしまう。そして、それがよくない事態をまねいてしまうこともあるから。

ロミが思いきって話せたのは、次の日の学校帰りだ。

その日一日、ミューちゃんが話題にするのは、リリィのことばかりだった。本物の魔法使いに出会ったのだから、その気持ちもわかる。

「ねぇねぇ、あの呼びだすやつを使ってさ、きょうもリリィちゃんを呼びだしてみようよ。それで、本当に小鳥に変身できるか、見せてもらうの。カラスや猫がこわかったら、私の部屋でもいいよ。それなら、なにもこわいものはいないでしょ」

 楽しそうに目をかがやかせているミューちゃんに、こう答えるときは、いつも胸が少しチクチクする。

「ごめん、きょうは塾なんだ」

「あ、そうかぁ、そうだったね。ごめん、ごめん」

 口ぶりこそは明るいけど、やっぱり、どこかつまらなさそうな顔。 

 それを見たとき、絶対に今日中にいわなければダメだと思った。それでも、やっぱりタイミングがつかめなくて、とうとう学校の帰りになってしまったのだ。

「ミューちゃん、じつは、わたし……」

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

この本と出会ったのは、もう30代になった娘が幼稚園児の頃でした。その娘が母となり、孫は3歳。まだ早いと思いますが「2〜3年後に手に取ってくれたら」という思いと「また絶版になったらどうしよう」という不安から注文させていただきました。“美術館”をテーマにした絵本は、他にも幾つかありますが、この本は「すばらしい絵」とともに大人にも子どもにも大切なことを教えてくれる美術入門書だと思います。(3歳・おばあさまより)

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