icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

時間色のリリィ

10

「そんなこと、だれに聞いたの?」

「それは……自分でも、よくわかんない。でも、どういうわけか知ってるの。きっと、頭の中にきざみこまれているんだね」

 そんなふうに答えられてしまったなら、もうなにも聞けなくなってしまう。

 けれど、本人がいっている通り、小学校の中に会社なんかないだろう。それとも、西木塚小学校が坂江第二小学校という名前だったころは、そういうこともあったんだろうか。

「だから、そこでロミちゃんとお姉さんに、お願い! そんな名前をどこかで聞いたら、すぐにわたしに教えて」

 そういいながらリリィは、ポンポンと柏手を打ってロミとミューちゃんを拝んだ。こういう動作が、ちょっとだけはずかしい。なんだか、ずっと年上のおばさんみたいだ。

「それはいいけど、どこに知らせにいけばいいの? 家くらい教えてくれないと、知らせることもできないよ」

「大丈夫! ちゃんと方法がありまーす。いつも身に着けているものを1つ、なんでもいいから貸して」

 そういわれて、ロミがパスケース、ミューちゃんがピンクのサイフを出した。するとリリィは例のシールを出し、それぞれの汚れなさそうなところに貼りつけたのだ。

「はい、“大魔法使い召喚装置”できあがり~」

「シール貼っただけでしょ」

「いやいや、これ、すごいんだって」

 冷静なロミのツッコミに、リリィは鼻息をあらくしていった。

「これをオデコのまえにかざして、『おそれおおくも大魔法使いリリィ、ここに来たれ~。おいしいお菓子も、ご用意しました~』って、呪文をとなえて。そしたら、少し時間がかかるかもしれないけど、ちゃんと行くから」

 リリィがいうには、これもシールの裏ワザ的使い方なんだそうだ。

「こうするとオデコに貼るより、ずっと効き目が弱くなるんだ。でもじつは、そこがいいわけよ。心のつながり方が浅いから、大した影響もないのね。でも、ちゃんとオデコにかざしてもらえば、よんでいるのはロミちゃんか、お姉さんか、わたしにはちゃんとわかるから……その気配が強いほうに行けば、ちゃんと会えるってこと」

「なるほど、それは便利だね……でも、ホントに呪文は必要?」

 ミューちゃんの言葉に、リリィは高速で目をパチパチさせながら答えた。

「お菓子のところを、アイス、チョコ、キャラメル、かんぴょう巻に取りかえてもいいよ。さらにホントに用意してもらえると、すっごくうれしい」

 どうして、1つだけお寿司が。

「じつは、さっきから気になってたんだけど」

 さらにロミはいった。

「呼び方なんだけど……なんでわたしはロミちゃんで、ミューちゃんはお姉さんなの? いっとくけど、わたしのほうが2カ月、ミューちゃんより年上なんだからね」

「それは……イメージかなぁ」

 リリィは悪びれもせず、サラリといった。たしかに精神年齢はミューちゃんのほうが上かもしれないけど、リリィにいわれると、少しだけイラっとする。

 それからすぐにリリィは、「そろそろ帰らないと、あかんのですねん」と、どこの方言かわからないような言葉を残して、どこかに行ってしまったのだけれど、その背中が見えなくなるまで見おくっても、小鳥になって飛んでいくようなようすはなかった。

(魔法使いだっていうのをぬきにしても、変わってる子だよね)

 シールを貼ったパスケースを引き出しにしまい、ロミは部屋を出て、リビングキッチンに行った。テーブルの上には何種類もの料理がならべられて、どれもがおいしそうだ。メインは、ロミが大好きな麻婆豆腐。

「あっ、きょうはチー坊豆腐なんだ。ラッキー!」

「チー坊豆腐じゃないよ! マー坊豆腐!」

 いつものロミのからかいにチー坊は、どこまで本気かわからないけど、大げさに怒る。髪を男の子みたいにショートにした、かわいい妹だ。

「だれよ、マー坊って」

「えーっと、中国でお料理している人。お料理の天才で、アイドルみたいにカッコイイの」

「ホントに、そういうマー坊がいたらいいね」

 それからロミが席に着くと、いつものようにパパが「いただきます」といった。パパといっしょに夕飯を食べるときは、こうしてパパが「いただきます」の号令をかけるのが、ロミの家のお約束だった。

 さっそくマーボー豆腐を口に運ぶと、少しだけピリッと辛いけど、やっぱりおいしかった。

 ふとロミは、八木谷のおばさんがいっていたことを思いだす。

(親っていうのは、自分の子どもがいくつになっても、お腹をすかせていないか、ちゃんとごはんを食べたのかって、心配しているもんなんだよ)

 そんなこと、わざわざ心配されなくっても、だれでもお腹がすいたら、自分でごはんを食べるものだ。

 でも––––ママやパパが、いつも心配してくれているのかと思うと、なんだか胸の下あたりに、あたたかなお湯が流れるような気がする。

「ママ、いつもごはんを作ってくれて、ありがとう」

 はずかしいから小さい声でいったのだけど、ママは聞きもらすようなこともなかった。ただ目を丸くして、だまってロミの額に手を当てる。

「どうしたの、弘美……うん、別に熱はないみたいね」

 そう来るにちがいないと、心の中で覚悟はしていたのだけれど。

(次回の更新は11月21日です)

1 2

バックナンバー

profile

  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

おばあちゃんが、まじょになったり、ロケットやUFOにのったりしておもしろかったりすごかったりして、あとおばあちゃんがだちょうにのったりしてたのしい本でした。(7歳)

pickup

new!新しい記事を読む