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時間色のリリィ

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「おばさん、このジュース、すっごくおいしいね! おかわりしていい?」

 話の流れをまったく気にしてないようにリリィがいったので、少しイラッとする。

「ニンジンのジュースも、なかなかでしょ? このおばあちゃんも好きなのよ」

 そういいながら八木谷のおばさんはリリィのコップを持って台所に引っこみ、すぐにおかわりを満たしてもどってくる。リリィはそれを受けとると、まったく遠慮もせずに、また半分ほどを一気に飲んだ。

「あー、おいしい! こんなにおいしいものをタダで飲ませてもらったら、ちゃんとお返しをしないとね」

「あらあら、そんなこと、子どもが気にするもんじゃないよ」

 おばさんがそういうと、リリィはなぜか顔の前に右手の人差し指を立て、チッチッチッと舌を鳴らしながら左右に振った。

「子どもはどうかは知らないけど、魔法使いは気にするものなのよ」

「魔法使い? あんた、魔法使いなのかい?」

 八木谷のおばさんは、大げさにおどろいた顔をして聞きかえした。やさしいおばさんは、とてもホントとは思えないリリィの言葉にも、ちゃんと合わせてくれるのだ。

「こう見えても、大魔法使いなのよ」

 例によって腕組みしていばりながら、リリィはいった。考えてみれば3つしか魔法を使えないくせに、大きく出たものだ。

「わたしが魔法で、そのおばあちゃんの心の中をのぞかせてあげる。もしかするとガッカリする可能性もあるけど、それでよければね」

 思わずロミは、ミューちゃんと顔を見あわせた。

「ちょっと、リリィちゃん! なんてことをいいだすのよ」

 リリィの肩をつかみ、くるりとおばさんの方に背中を向けさせていったのはミューちゃんだ。

「さっき聞いた3つの中に、そんなのなかったじゃない。どうするつもりよ」

 その言葉への答えのように、リリィは右手の指をパチンと鳴らした。もう何度か見ているけれど、その指先に例のシールがあらわれるのは、なかなか見事なものだ。

「そのシールって、知らない人と友だちになるためのシールでしょ? どうすれば、あのおばあちゃんの心の中をのぞけるっていうのよ」

 鼻息を荒くしてロミが聞くと、リリィはシールをロミの目の前につきつけて答えた。

「ロミちゃんのいうとおり、これは友だちになるためのシールだよ。じゃあ、ここで問題です。友だちになるって、どういうことでしょう」

「えっ、いきなりむずかしいこと、聞くね」

 そういったのはミューちゃん。

「なかよくなるってことだから……どういえばいいのかな」

 ロミも頭をひねってみるけれど、一言であらわす言葉が思いつかない。

「まぁ、じつはわたしも、よくわかんないんだけど」

 2人で考えていると、問題を出したほうのリリィが、あっさり白状した。

「早い話、自分と相手の心が、トンネルみたいにつながるってことじゃない?」

「あ、なるほどね」

 いわれてみると、そんなふうなものかもしれない。はじめは小さなトンネルでも、いつも遊んだり話したりしているうちに、そのトンネルが深くなったり、しっかりしたものになっていったりする。

「トンネルっていうのは、おたがいに行ったり来たりできるものよ。だから、こうすれば」

 そういってリリィは、なぜか自分のオデコにシールを貼った。つづいて再び指を鳴らして、もう1枚シールを出す。

「こっちのシールを、あのおばあさんのオデコに貼るの。そうしてわたしとおばあさんが手をつなげば、おたがいの心がのぞけるようになるってわけ」

「えっ、それってすごい」

 ミューちゃんが素直におどろいた声でいった。

「これは、このシールの元々の使い方とはちがう方法だよ。わたしが自分で考えたんでーす」

 つまり、魔法の“裏ワザ”ということらしい。

「それで、あのおばさんのオデコにもシールが貼ってあるから……手をつなぎさえすれば、あのおばさんも、おばあちゃんの心がのぞけるはずよ」

「ちょっと待って」

 思わずロミは口をはさむ。

「そんなことして、大丈夫なの? ポンちゃんみたいな場合もあり得るのよ」

 とりあえずは慣れたけど、やっぱりポンちゃんが自分のイメージとはちがうキャラだったショックは、それなりに大きい。

「だから、ガッカリする可能性もあるって、ちゃんといったでしょ」

 リリィは少しだけ口をとがらせた。

「でもね、この大魔法使いのリリィを、あんまりバカにしないほうがいいよ……それくらいのこと、わたしだって考えてるんだから」

「どうするのよ」

 2人で口々にたずねると、リリィはめずらしくマジメな顔と声で答えた。

「はじめにわたしだけが、おばあちゃんと手をつなぐようにするよ。それで、おばさんをガッカリさせそうだなって思ったら、適当なことをいってごまかす」

「どんなことよ」

「たとえば……若さだね、おばあちゃん! とか」

「もっとマジメにやんなさい!」

 そういってリリィのお尻をたたいたのは、ミューちゃんだった。

(次回の更新は11月1日です)

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

おばあちゃんが、まじょになったり、ロケットやUFOにのったりしておもしろかったりすごかったりして、あとおばあちゃんがだちょうにのったりしてたのしい本でした。(7歳)

pickup

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