来るたびに思うことだけれど、八木谷さんの家は、本当に大きい。
それでいて古くもある。まるで時代劇に出てくる建物みたいな形をしているけれど、屋根の上に太陽発電用のパネルが乗っかっていたり、衛星放送用のアンテナが飛びでていたり、縁側にはサッシがハマっていたり、いまとむかしがごちゃ混ぜになっている感じだ。
そんなに大きい家なのに、まわりにコンクリートの塀はない。
林といってもいいくらいに木が植えてあるので、それが塀の代わりなのだろう。よく見ると、金網でできた背の低いフェンスもあるにはあるが、それには草のつるがびっしりと巻きついていて、まわりの木に取りこまれたようになっている。
その中にロミの家が全部入ってしまいそうな庭があって、ヤギのポンちゃんはそれをひとり占めしている。いちおうは首輪に長いひもがつけられているけれど、あくまでも勝手に外に出ないようにするためのもので、庭の中なら好きなように動けるのだ。
「ポンちゃん、ひさしぶり!」
「元気にしてた?」
ロミたちは道路に面した小さな道から庭に入ると、縁側近くにいたおばさんにあいさつしたあと、すぐにポンちゃんに駆けよって言った。ポンちゃんは庭のはしにいて、フェンスにからんだなにかの葉っぱをかじっているところだった。
「ポンちゃん、きょうはおもしろい子を連れてきたよ。この子、ポンちゃんと話ができるんだって」
ミューちゃんが興奮したようにいったけれど、ポンちゃんが特に興味を示しているようすはない。
じつはポンちゃんは、けっこうクールで、いくらつきあいが長いといっても、犬みたいにしっぽを振ることもなければ、いきなり地面に転がっておなかを見せたりするようなこともない。ヤギだから仕方がないとはいえ、いつ会っても、こっちには少しも興味なさそうに、ただ葉っぱをかんでいるだけなのだ。
「さぁ、リリィちゃん! ポンちゃんと話してみて」
ミューちゃんが目をキラキラさせていうと、どこか気の毒そうな口ぶりで、リリィは答えた。
「そりゃ、話せっていうなら話すけど……いっておくけど、見ておもしろいものでもないよ。もしかすると、ガッカリさせちゃうかも」
「いいから、いいから」
何度もせっつかれて、リリィはポンちゃんに話しかけた。
「えーっと、はじめまして、ポンちゃん。わたしは、大魔法使いのリリィ」
いちおう、いつものように腕を組んでいばった態度だけれど、どういうわけか元気がない。話しかけられたポンちゃんは、リリィのほうには少しも目をむけず、ただ小さな声で鳴いた。
「あっ、ポンちゃん、いま、返事したね! ちゃんと話ができてるんだ」
それでもミューちゃんは、うれしそうにロミの肩をたたいた。たしかにロミの知るかぎり、ポンちゃんはあまり鳴かない。鳴いたとしても、よくあるヤギの鳴き声の「メェ~」ではなく、おじさんみたいな太い声で、「ベェ」と短く鳴くだけだ。
「リリィちゃん、いま、なんていったの? ポンちゃんは」
「あの……その……」
気を持たせようとでもしているのか、リリィは口ごもった。
「早く教えてよ」
「あの……『うるせぇ、あっち行け』って」
「えっ」
ロミとミューちゃんは思わず顔を見あわせた。
「あと、『あぁ、めんどうくさい連中が来た。その手に持った葉っぱをおいて、とっとと帰んな』ともいってる」
あんまりといえば、あんまりだ。子どものころからなかよしだと思っていたのに、そんなふうに思われていたなんて––––大ショック。
「だから、いったでしょ。ガッカリさせちゃうかもって」
ションボリと肩を落としたロミとミューちゃんに、リリィはいった。
「動物にだって性格があるんだから、みんなかわいいとはかぎらないんだよ」
それはたしかにリリィのいう通りだろう。人間だって、いろんな性格の人がいる。すぐになかよくなれる人もいれば、いつまでたっても友だちになれそうもない人まで、いろいろだ。
「それはわかってるけど、やっぱりショックだなぁ」
ミューちゃんは、ほんとにガッカリしたんだろう。いつも明るいミューちゃんらしくない言い方をした。
(そんなふうに思うのは早いよ、ミューちゃん。もしかしたらリリィが、ウソをついているのかもしれないじゃないの)
そう考えたロミが、そのまま口に出そうとしたとき––––。
「気持ちはわかるけど、そんなふうにいったら、このヤギさんがかわいそうだよ」
思いがけず、いいかえしたのはリリィだった。
「このヤギさんは、むかしから、ずっとこんなふうだったわけでしょ。つまりヤギさんは、なにも変わってない。でも、お姉さんは、自分の思っていた通りじゃなかったからって、勝手にガッカリしてる。だからわたし、このヤギさんのいっていることを教えたくなかったの」