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時間色のリリィ

5

 八木谷さんの家の前につながる道を曲がると、急にミューちゃんが歩くスピードを落とした。そしてロミの耳もとに顔を近づけ、口元をダイコンの葉でかくしていう。

「ねぇ、ロミ……あの子の服、変わってるね」

 ミューちゃんが見ている方向に顔をむけると––––おどろいたことに、きのう公園で姿を消したはずの女の子が、前から歩いてくるのが見えた。どういうわけか、肩を落としてうつむいて、どことなくションボリした感じだ。

「キラキラ光って、宇宙服みたいじゃない? なにかのコスプレかな」

「あの子……」

「知ってる子?」

「さっき学校で話したじゃない。きのう、会った子だよ」

 その名も、忘れはしない––––大魔法使いのリリィ。

(なぁんだ、やっぱりふつうの子だったんじゃない)

 オバケや魔法使いみたいな不思議な存在が、自分たちと同じように、当たり前に町を歩いているはずなんかない。きのうはいきなり姿が見えなくなってビックリしたけれど、やっぱり手品のようなしかけがあったんだろう。

「へぇ、あの子が……ずいぶん個性的ね」

 ミューちゃんは、目をキラキラさせていった。

「ちょうどいいから、どうして古い学校の名前を知ってたのか、聞いてみようか」

「それは別にいいじゃない。なんだか……あんまり関わらないほうが、いい気がするんだけど」

 眉をひそめて、ロミは答えた。

 きのうのことについては、ミューちゃんに話してないことが多すぎる。あの子に下手に話しかけて、それを説明しなくちゃならなくなるのも、ちょっとつらい。

「こっちの道から行こうよ」

 すぐ近くの角を指さしてロミはいったけれど、タッチの差でおそかった。その声に顔を上げたリリィは、ロミを見つけたとたんに、はじけたように笑ったのだ。

「ミコミコちゃん!」

 リリィはすごくうれしそうに、両手を上げて走ってくる。そのたびに銀色の服が太陽の光を受けて、ピカピカと光った。

「ロミのこと、ミコミコちゃんだって」

 なにも知らないミューちゃんはおもしろそうにいった。ロミの気も知らず、リリィにすごく興味を持っているみたいだ。

「ミコミコちゃん、まさしく“地獄でも仏”よ! お願い、助けて」

 駆けよってきたリリィは、両手ですばやくロミの手をにぎった。本当は身をかわそうとしたのだけれど、そんなイジワルな態度を人に取ったことがないから、ついにぎらせてしまったのだ。

「ん~? “地獄でも仏”って、なにかおかしくない? 仏さまは地獄でも、ちゃんと仏さまってこと?」

「そこを真剣に考える? たぶん“地獄に仏”の言いまちがいだよ、ミューちゃん」

「あ、そうか……どうもへんだと思った」

 ミューちゃんはリリィのことを、少しもあやしく思ってないみたいだ。

「ミコミコちゃん、このお姉さんは、だれ? きょうは、きのうのやさしいお兄さんといっしょじゃないの?」

 思ったとおり、こっちがいってほしくないことをリリィは口走る。

「ミューちゃん、早くポンちゃんのところに行こうよ」

 そういいながらリリィの手を振りほどこうとしたロミの肩を、ミューちゃんがたたいた。

「でも、この子、なんだかこまってるみたいだよ。話くらい聞いてあげたら」

「あっ、お姉さん、いい人! すごく、いい人!」

 ミューちゃんの言葉を聞いて、リリィはその場で飛びはねた。

「しょうがないわね……いったい、どうしたっていうのよ」

 前髪の生えぎわをカリカリとかきながら、ロミはたずねた。

「まずね、ものすごく物価が高い!」

「えっ」

 思わずロミは目を丸くして、ミューちゃんと顔を見あわせる。そんなお母さんみたいな言葉が、ここで出てくるとは思わなかったからだ。

「それが、聞いてよ……いま、すぐそこの小さいスーパーみたいなところで、いつものキャラメルを買おうと思ったの。1粒で2度おいしいヤツよ。でも、それが売ってなくって、ちょっと大きい袋に入ったキャンディーしかなかったの。しょうがないなぁと思って値段を見たら、1袋で188円もするのよ! 信じられる?」

 リリィは大きな目を、いっぱいに開いていった。

「まぁ、種類にもよるけど、それくらいはするんじゃない?」

 そう答えたのは、ミューちゃんだ。ミューちゃんは人見知りしない性格で、だれとでも、すぐに友だちになってしまう。

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

保育園で楽しそうにこちらの絵本を見ているときいたので購入しました。今では1ばんのお気に入りの絵本です。歌いながら読み聞かせすると"お腹がペコペコ"とジェスチャーしたり、てをパタパタと蝶のまねをしたり、親子で楽しい時間を過ごしています。土曜日の食べ物がずらりと並ぶところは大興奮です。素敵な絵本をありがとうございます。(1歳・ご家族より)

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