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時間色のリリィ

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 もちろん、おばさんにもしかられた。

「だから、この子の前でしゃがんじゃダメだっていったでしょ! ヤギは少しでも高いところにのぼるのが好きだから、上に乗ろうとするんだって」

 ポンちゃんにしてみれば、そのときのロミは、手ごろな台にしか見えなかったのだろう。

 その体験のせいで、いきなりロミは、ポンちゃんがこわくなってしまった。もう近づくのもイヤになったし、なでてあげたいという気持ちも、悲鳴といっしょにどこかに飛んでいってしまったのだ。

 そのロミに、ミューちゃんはめずらしくマジメな顔でいった。

「ロミちゃん、ポンちゃんの頭をナデナデしてあげなよ」

 そのころのミューちゃんは、ロミのことを“ちゃんづけ”でよんでいたものだ。

「えっ、こわいよ」

「じゃあ、背中でもおしりでもいいから」

 ロミには、どうしてミューちゃんがそんなことをいいだしたのか、少しもわからなかった。いつもは無理に人になにかさせるようなことを、絶対にいわないのに。

「ひどいよ、ミューちゃん……こわいっていってるのに」

 また泣きたくなるような気持ちでロミがいうと、ミューちゃんはロミの手を強くにぎっていった。

「ロミちゃん、こわいって思ったまま家に帰ったら、ずっとこわいままだよ。その気持ちがどんどん大きくなったら、もうポンちゃんにさわれなくなっちゃうし、会うのもイヤになっちゃうよ」

 そういわれたときは、どうしてそういうことになるのかわからなかった。こわいときに近づいて、また背中に乗っかられでもしたら、もっとポンちゃんがイヤになってしまうんじゃないだろうか。

「さぁ、勇気を出して、ロミちゃん」

ミューちゃんにはげまされて、思いきってポンちゃんの背中をなでた。すると、手を動かすたびにこわかった気持ちが少しずつとけて、やがてスーッとなくなってしまったのだからビックリだ。

「ほら、もう平気でしょ」

 いっしょにポンちゃんをなでながら、2人で笑いあったけれど––––そのとき、ミューちゃんはすごい、とロミは思った。どうして、こわい気持ちを消す方法まで知っているんだろう。

 5年生になったいま考えても、あんな小学2年生は、あまりいないのではないかと思う。

 自分と同じ歳なのに、本当にミューちゃんは、ずっと大人だ。

 ミューちゃんにはお姉さんがいるけど、やっぱり年上のきょうだいがいると、早く大人になったりするものなんだろうか。

 どうせだったら、自分とミューちゃんがふたごのきょうだいだったらよかったのに……と、その後も、そしていまも、ロミは思っている。

 (次回の更新は9月21日です)

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

もう40年近くも昔、私が小学生の時、担任の先生がこの本を使っており、私たちは呪文のように唱えながら楽しんで漢字を覚えました。現在私は教師となり、肢体不自由で書字が困難な児童を受け持っています。この本のことを思い出し、書店で探しましたが、まだ出版されていてよかった!!書けなくても楽しく漢字を学ぶことができます。永遠のベストセラーです!!(47歳)

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