icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

時間色のリリィ

4

 ロミはこまったような笑いをうかべながら、ダイコンの葉っぱを受けとった。顔の前に持ってくると青くさいにおいがするけれど、けして悪いにおいじゃない。

「こりゃあ、ポンちゃん、よろこぶね」

「うん。なんだか、おいしそうなにおいだもんね」

 二人は深呼吸するみたいに、手に持ったダイコンの葉っぱのにおいをかいだ。目をつぶると、まるで森の中にいるような気分になる。あぁ、いい感じ。

「そうそう、いまのうちにいっておくけど、前みたいにポンちゃんの前でしゃがんだりしないでよ? また乗られちゃうんだから」

 ダイコンのにおいで気分がよくなっていたのに、ミューちゃんが少しイジワルな口調でいった。

「この前って、2年生のときの話じゃないの……いつまでもいうんだから」

「いやぁ、あのときのロミは半端じゃなく泣いてたし、なかなかインパクトのある顔をしてたよ」

 そんなふうにいわれると、きのうの園内くんのことが笑えなくなってしまうけど、こっちは3年近くむかしのことだから、少しくらい大目に見てもらおう。

「あのときは、ほんとにこわかったんだよ。だって、いきなりヤギが背中に乗ってくるなんて思わないんだもん」

 そう、ポンちゃんは、白いひげを生やしたヤギだ。

 図書館のすぐ裏手に、少し古いけれど大きな家があって、そこで飼われている。ロミの家がスッポリ入ってしまいそうなくらいに広い庭のはしっこに、つながれているのだ。でも、首につけられたリードは10メートルくらいあって、ほとんど自由に庭の中を歩くことができる。

 そこの家のおばさんはいい人で、子どもなら庭先に入って、ポンちゃんをなでたりしても怒らない。だから幼稚園に通っていたころから、よく行き帰りになでさせてもらったものだ。飼っている人の名前が“八木谷さん”というのは、少しでき過ぎだと思うけど、ホントなんだからしかたない。

 けれど、ポンちゃんには悪いくせがあった。

 なんでもヤギの性質らしいのだけれど––––目の前でうっかり背中をむけてしゃがんだりすると、いきなり前足を乗せてくるのだ。うかうかしていると重心をかけてくるので、けっこう痛い。

 ロミは2年生の夏休みに、これをやられた。

 八木谷のおばさんに注意されていたのに、うっかりしゃがんでしまったところで両肩に足を乗せられて、グイグイ押されたのだから、たまらない。痛いのとこわいのが心の中でぶつかりあって、ロミはきのうの園内くん以上の悲鳴をあげてしまったものだ。

1 2 3 4

バックナンバー

profile

  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

もう40年近くも昔、私が小学生の時、担任の先生がこの本を使っており、私たちは呪文のように唱えながら楽しんで漢字を覚えました。現在私は教師となり、肢体不自由で書字が困難な児童を受け持っています。この本のことを思い出し、書店で探しましたが、まだ出版されていてよかった!!書けなくても楽しく漢字を学ぶことができます。永遠のベストセラーです!!(47歳)

pickup

new!新しい記事を読む