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時間色のリリィ

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 そんなふうに決心はしたのだけれど––––それから20分ほどして、待ちあわせ場所の小さな公園にあらわれたミューちゃんを見たとき、いきなり気持ちがポキンと折れてしまった。

 なぜだかミューちゃんは、両手になにかの葉っぱの束を持って、うれしそうに歌いながらやってきたからだ。その歌に合わせて、チアガールの持っているポンポンみたいに振っている。

「わたしは元気なダイコン娘~どこもかしこも真っ白で~どこもかしこもツルッツル~」

 その歌を聞いて、ロミは思わずかたまってしまった。

 ミューちゃんはつり目がちの目をしていて、笑うと眠っているネコみたいな顔になるし、背が高くてスタイルもいいし、アイドルなんかになるのも夢じゃないような女の子なのだけれど––––ときどき、こういうわからないことをするのが玉にキズだ。

「なんなの、その歌?」

 あいさつするより先に、そんな言葉が出てきてしまう。

「これはダイコン娘の歌よ。知らない? いまどきモテカワ女子のあいだでブレイク中なのに」

「いや、なにいってんのか、ちっともわかんない」

 きっとミューちゃん自身も、わかってないんだろうな。

(うーん、きのうは“ナウなヤング”で、きょうは“いまどきモテカワ女子”かぁ)

 なんだか時間を行ったり来たりしているような気がするけど、どっちにしてもおなかいっぱい。

「まぁ、それはジョーク。ホントは、お母さんがダイコンを料理するときに、いつもうたう歌なの。お母さんは、おばあちゃんが歌ってたのをおぼえたっていってるけど」

「そうなんだ……意外に歴史のある歌なんだね」

 きっと、ミューちゃんの家だけの歴史なんだろうけど。

「それってダイコンの葉っぱ?」

「そうだよ。ひさしぶりにポンちゃんに会いに行くんだったら、なにかおみやげを持っていったほうがいいかなって思って……途中で近くのスーパーに寄って、もらってきたの」

 スーパーのダイコンは、たいてい葉っぱの部分がカットされて売られている。じつは葉っぱの部分のほうが栄養いっぱいらしいのだけれど、なぜだか食べる人が少ないからだ。そのおかげで、カットした切れはしなら、タダでもらえたりする。

「じゃあ、ロミにもあげるね……ポンちゃん、きっとよろこぶよ」

 そういいながらミューちゃんは、左手に持っていた葉っぱの束をロミに差しだした。

「ついでに、ダイコン娘の歌も教えてあげようか」

「いやぁ……それは、いいかなぁ」

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

もう40年近くも昔、私が小学生の時、担任の先生がこの本を使っており、私たちは呪文のように唱えながら楽しんで漢字を覚えました。現在私は教師となり、肢体不自由で書字が困難な児童を受け持っています。この本のことを思い出し、書店で探しましたが、まだ出版されていてよかった!!書けなくても楽しく漢字を学ぶことができます。永遠のベストセラーです!!(47歳)

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