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時間色のリリィ

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「そういえば……じつはきのう、ちょっとへんなことがあってさ」

 いっしょにトイレに行ったあと、校庭のすみの花壇の前で、ロミはきのうの出来事をミューちゃんに話した。2時間目と3時間目のあいだの休み時間は長めなので、ゆっくり話ができる。

「たいしたことじゃないんだけど、『じゃらりん堂』の近くで、へんな女の子に会ったの」

 やっぱり園内くんのことをふせるために、ロミは本当にあった出来事を少し変えて話した。もちろん、その女の子が自分のことを大魔法使いだといっていたことも、突然に消えてしまったこともはぶいた。その事実のほうが、よっぽどうそっぽいからだ。

「で、その子が、そのへんな名前の会社みたいなのは、坂江第二小学校の中にあるっていってたんだけど……そんな学校、どこにあったっけ?」

「坂江第二小学校? その子、そんな名前をよく知ってたね。わたしたちより年下だったんでしょう?」

「あくまでも、見かけはね」

「その学校……じつは、もうないんだよ」

 ミューちゃんは、小さな声で言った。

「もうないって……つまり、むかしはあったの?」

「うん。まぁ、早い話、いまの西木塚小学校のことよ。むかしは坂江第二小学校っていったんだって、お父さんに聞いたことがある」

 ミューちゃんは意外に事情通で、ロミが知らないむかしのことをくわしく知っていた。

 それによると、むかしはいまよりもずっと子どもの数が多くて、1つの学年で42、3人のクラスが5つも6つもできるのはめずらしくなかったそうだ。特に坂江第二小は、近くに大きな団地ができて、どんどん生徒が増えていったらしい。

 そのうち坂江第二小だけではまにあわなくなって、近くに別の小学校を作って、生徒の数を分けた。ロミの小学校は、どの学年も30人足らずのクラス三つがふつうなので、ビックリしてしまうくらい景気のいい話だ。

 けれど時間がたつにつれて、今度は子どもが減りはじめた。

 近くの団地に住んでいた子どもたちも大人になっていくのだから、しかたがない話なんだろう。それでも同じ数だけ子どもが入ってくればいいのだけれど、そのペースはおそかった。

 やがて何十年かたつと、今度は学校に子どもがいなくなってしまった。いくつも教室があるのに、その半分も使わなくなってしまったらしい。

 “大は小をかねる”とはいうけれど、なんでも大きいまま使うのは、ムダが多くなるものだ。

 それで二つの学校を合体させて、新しい学校にすることにした。もともとあった坂江第二小学校の校舎に、すべての生徒を移して、名前を“西木塚小学校”にあらためたのだ。前からある「坂江第二」の名前を使うと、そこに移ってきた子どもたちがおもしろくないから、まったく新しい名前にしたにちがいない。

「だから校舎は同じだけど、西木塚小は、むかしは坂江第二小っていう名前だったのよ」

「へぇ、そうなんだ……それって、いつくらいの話かな」

「よくはわかんないけど、20年はむかしだと思うよ」

 もちろん、そのころは自分もミューちゃんも生まれていなかったのだけれど––––どうしてリリィは、そんな古い学校の名前を知っていたのだろう。しかも、その中に“ミコ・ミコぷろだくしょん”があった、なんてことまで。

 なんだか気持ちわるいなぁ––––ロミがそう思ったとき、ミューちゃんが切りだしてきた。

「それはそうとさ、ロミ。きょうは火曜だから、塾はないよね?」

「うん、ないよ」

 ロミはいま、塾の水曜と金曜のクラスに通っている。

「じゃあ、ひさしぶりに図書館に行かない? わたし、返さなくっちゃいけない本があるんだ。それに、たまにはポンちゃんの顔を見たいし」

「うん、いいね」

 ロミは即答したけれど––––やっぱり、あのことを早くミューちゃんに話さなくっちゃいけないな……と思うと、少しだけ胸がチクチクした。

(次回更新は9月1日です)

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  • 朱川湊人

    朱川湊人

    1963年1月7日生まれ。大阪府出身。出版社勤務をへて著述業。2002年「フクロウ男」でオール読物推理小説新人賞、2003年「白い部屋で月の歌を」で日本ホラー小説大賞短編賞、2005年大阪の少年を主人公にした短編集「花まんま」で直木賞を受賞。おもな作品に、『スズメの事ム所 駆け出し探偵と下町の怪人たち』『アンドロメダの猫』『無限のビィ』『冥の水底』『なごり歌』『かたみ歌』『サクラ秘密基地』『オルゴォル』『銀河に口笛』『いっぺんさん』『都市伝説セピア』などがある。

今日の1さつ

最近絵本よりもYouTubeを見ていた息子ですが、この本はキャッキャッと笑いながら楽しんでいます。何故かふくろうさんの舞踏会のお面が大好きらしいです。(2歳・お母さまより)

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