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放課後の読書クラブ

第7回 作家になるためには 前編

好きこそ物の上手なれ

「読むこと」をテーマに、自身の読書体験、おすすめの本などについて、作家・小手鞠るいさんが語ります。

 作家になりたい。

 わたしもそう思っていた。

 中学1年生のころからだった。文芸クラブの顧問の先生に作文をほめられて以来ずっと、将来の夢は「作家になること」だった。

 作家になるためには、どうすればいいのですか?

 よくきかれる。夏期講座を受け持っている大学の文学部の学生からも、読者の方からも、ツイッターのフォロワーからも、知人や友人からも「作家になるための方法を教えてください」と。

 『放課後の文章教室』のなかでも、同じ質問に答える形で、わたしはアドバイスを書いている。同じようなことを書いてもつまらないから、そこには書かなかったことを書きたい。

 作家になりたいあなたへ、まずはわたしからの質問です。

 あなたは、文章を書くことが好きですか?

 答えは当然イエスでしょう。書くことが好きじゃなかったら、作家にはなれない。

 では、あなたは文章を書くことが3度の食事よりも好きですか? 映画よりも音楽よりもどんな趣味よりも、娯楽よりも、恋人よりも「書くこと」が好きですか?

 迷うこともなくイエスと答えたあなた、まずは1次試験に合格しました。

 次の質問です。

 あなたは、読書が好きですか? 本を読むことが好きですか? 3度の食事よりも、映画よりも音楽よりも(以下同文です)好きですか?

 イエスと答えたあなた、ますます自信を持ってください。書くことと読むことが同じくらい好きじゃなかったら、作家にはなれない。わたしはそう思います。

 では、最後の質問です。

 あなたには、書くこと以外に、得意なことがありますか?

 ノーと答えた人、あなたは作家になれます(と、とりあえず書いておきます。もちろん例外はあると思います)。

 これはあくまでもわたしの見解に過ぎないけれど、書くことと読むことが好きで好きでたまらず、書くこと以外にはできることがない、という人は、作家になれる可能性が大いにあるのではないか、と、わたしは思っている。

 ここまでは前置き。ここから本題に入っていきます。

 作家になるためには、どうすればいいのか。

 まず、作品を書かなくてはならない(当たり前ですね)。書くためには、読むこと。浴びるように読むことでしか、うまく書けるようにはなれない。学校の教室や大学の夏期講座やカルチャースクールで、どんなに勉強や研究を積みかさねても、うまく書けるようにはなれない。これはわたしの経験から言えることである。

 では、どんな本を読めばいいのですか?

 この質問もよく耳にする。

 わたしは毎回、同じ答えを返している。

 「あなたの好きな作家の本、あなたの好きな文章で書かれている作品、あなたの好きなテーマ、興味のあるテーマの本を、片っぱしから読んで下さい。キーワードは『好き』です。好きこそ物の上手なれ。好きな本を、好きなだけ読んで、書きたいことを書きたい文章で書く。まずそこから始めて下さい」

 2019年の日本帰国時に受けた雑誌のインタビューで「今年いちばん、おもしろかった作品はなんですか?」ときかれて、わたしは、富安陽子さんのエッセイ集『童話作家のおかしな毎日』を挙げた。

 その本のなかに、こんな文章がある。

(前略)中学校から高校にかけてのわたしは、とにかくひまさえあれば本を読むか物語を書いていた。熱中しはじめると、誰かが呼ぶ声も聞こえなくなり、時間がつのも忘れてしまうので、よく怒られた。

 そう、作家になれる人というのは、こういう人なのである。

 高校時代に書いた童話を両親に自費出版してもらった富安さんは、その本を、大学で「文章表現」の授業を担当していた教授に送った。感動した教授は、出版社に送った。これがきっかけとなって、富安さんは20代で童話作家になった。

 石にかじりついてでも作家になりたくて、でも、30代になっても、40代になってもなれなかったわたしの目から見ると、なんて幸運なスタートなんだろう、と、うらやむばかりである。

 しかし、これは単なる幸運ではない、ということも、今のわたしにはわかっている。10代だった富安さんの書いた童話には、幸運を引きよせる強い力があった。つまり、運ではなくて、才能があった。だから作家になれたのである。

 作家になりたければ、本を読まなくてはならない。と、先にわたしは書いた。あなたの「好きな本」を、あなたの「好きなテーマ」で書かれている本を、浴びるほど。

 言い方を変えると、あなたにとって「つまらない本」「興味のないテーマの本」なら、読まなくていい、とも言える。

 人からすすめられても、無理に読む必要はない。また、とちゅうまで読んで「ああ、たいくつ」「おもしろくもなんともない」と感じたら、そこで読むのをやめてしまっていい。ベストセラーであっても、課題図書であっても、あなたが「つまらない」と思ったら、その作品はつまらないのである。もちろん、何年かあとで読んだときには、おもしろく感じることだってあるだろうが。

 読書とは、きわめて個人的なものだとわたしは思っている。

 映画や音楽や美術と違って、読書は、ほかの人たち(観客、聴衆)といっしょにすることはできない。あくまでも1対1でなされるもの。あくまでも孤独。孤独ではあるけれど、本を読んでいるときあなたは、作家と1対1で会話をしている。

 そのような1対1のつながりを愛せる人でなかったら、作家にはなれない。本を読むこと、書くことは、SNSで大勢の人たちとつながっている状態の真逆だと思ってもらいたい。

 村上春樹さんは『職業としての小説家』のなかで、こう語っている。

(前略)小説家というのは、芸術家である前に、自由人であるべきです。好きなことを、好きなときに、好きなようにやること、それが僕にとっての自由人の定義です。芸術家になって世間の目を気にしたり、不自由なをまとうよりは、ごく普通のそのへんの自由人になればいいんです。

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profile

  • 小手鞠るい

    小手鞠るい

    1956年岡山県生まれ。同志社大学卒業。小説家。詩とメルヘン賞、海燕新人文学賞、島清恋愛文学賞、ボローニャ国際児童図書賞などを受賞。2019年には『ある晴れた夏の朝』(偕成社)で、子どもの本研究会第3回作品賞、小学館児童出版文化賞を受賞。主な作品に『エンキョリレンアイ』『きみの声を聞かせて』『アップルソング』『思春期』『初恋まねき猫』『放課後の文章教室』『空から森が降ってくる』など多数。1992年に渡米、ニューヨーク州ウッドストック在住。

今日の1さつ

保育園でクリスマスプレゼントとしていただきました。元々、保育園にあった本で、子どもたちが皆大好きな絵本だったので、プレゼントとして選ばれたそうです。特に息子は気に入っていたようで、先生は何度も読まされたとのことです。この絵本がわが家に来てからも彼の熱は冷めず、私も夫も何度も読み、やめようとすると泣いて怒られました(笑)。(1歳・お母さまより)

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