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絵本の相談室

保育士によるはじめての絵本えらび 第12回(最終回)

大事にかかえたくなる1冊と出会えたら

絵本と子育ての相談に答えてくださった安井素子さんの連載は、今回で最終回。第11回につづき、なぜ、「子どもが好きな本がいつでも手にとれるところにあること」が大事なのか、教えてもらいました。

 「おとなのくせに本気で、あるいは楽しみに子どもの本とつきあっている人々は、いつかどこかで知りあうものだ……」という言葉がある。これは、長野県にある小さな絵本美術館の館長が大事にしている、スイスの児童文学研究家の言葉だ。最近、この言葉が心にしみてくる。こうして、ここで「絵本の相談室」という連載を書くことになるまでに、本当にたくさんの人と出会ってきた。

 「連載、読みました」と声をかけてもらったりすると、なんだか、ずっと昔からの友だちだったような気持ちになったりする。子どもの本でつながるとき、「子どもの本が持つ力って無限大なのではないか」と感じるこの頃です。これで最終回なのだけれど、きっとどこかでまたつながりが増えるのではないかと思う。いい機会をもらえたことに感謝。

おとなは長いスパンで「なつかしい」と思い、子どもはそれを時間単位でくりかえしている

 先日『ノンちゃん雲に乗る』(石井桃子 著、福音館書店)を読み返していた。これがあらためておもしろく、すっかり子どもの頃の自分にもどり、ノンちゃんと自分をくらべている自分に気づき、そんな自分にちょっと笑ってしまった。でも、子どもの頃の自分に出会える、このことが子どもの本の魅力のひとつでもあると思う。

 児童センターでカウンターにならべた絵本、子どもの本の専門店で棚にならぶ絵本、わたしが読もうとして開いた絵本。それを見て、「なつかしい!この本読んだ!」「これ、好きだった絵本です」というお母さんやお父さんの姿、学生さんの姿を何度も目にしてきた。たぶんその瞬間、自分の子ども時代がすっとよみがえったのではないかと思う。おとなは長いスパンで子どもの頃読んだ絵本を思い出したりするのだけれど、小さい子どもたちはそれを時間単位でくりかえしているような気がする。

 「あ、これみたことある」
 「あ、これしってる」
 「あ、これはこうだったんだ」

 まだ言葉をうまく話すことができない1歳の子でも、そんな風に思って同じ本を何度でも読むのじゃないかなあ。子どもの頃は夏休みがすごく長かったのに、いまはあっという間に時間が過ぎるみたいに、子どもとおとなは、もっている時間がちがうのだとよく感じる。そう考えると、「同じ本を何度も見る」「ページをめくることをいつまでもくりかえす」「自分のペースで読みすすめる」って、とてもすてきな時間を過ごしていると思いませんか?

 だから、子どもが好きな本がいつでも手にとれるところにあることは、きっと、とても意味があること。たくさんじゃなくていいから、子どもたちが大事にかかえたくなる1冊と出会ってくれたらいいなあと、わたしは、絵本のおもしろさを伝え続けている気がする。子どもの心の奥底に沈殿していて、ときどき取りだして楽しむことができる絵本に、親子で出会ってもらえたらうれしい。きっとまた、どこかで……。

読んだことを覚えていてほしいと思う絵本『ピン・ポン・バス』

 子どもたちが、読んだことを覚えていてほしいなあと思う本に、『ピン・ポン・バス』(竹下文子 作/鈴木まもる 絵)がある。バスが町から山までいろんな人を乗せながら走っていくシンプルなお話。でも、この絵本の中には優しさがいっぱいつまっている。

ピンポンバス

 電車や車の本が好きな子は、図鑑も好きだけれど、動いている車も大好き。そこに乗っている人の生活や運転手さんの気配り、日が暮れていくまでの時間の流れ……。

 友だちに過疎化が進んだ地域の保育園で保育士をしていた人がいる。そこでは、保育園に通う幼児でもバスで通園していたのだって。「毎日、バスで通っていただいちゃんが、この本を大好きだったんだ」と言って、家にあるこの本をなつかしそうに手にとった。最後の運転手さんがバスを降りる場面が特に好きで「運転手さんもバスもおうちに帰るんだね」と言っていた、と。

 きっと、あの夕焼けの広がる夕暮れの山道は自分が走って帰る景色と同じだったんだろうなあ。わたしは、そのページは運転席のアクセルやブレーキ、タコメーターまで説明しているところがおもしろいと思って見ていたのだけれど、だいちゃんはきっと、この本を読んでくれた先生と夕焼けの場面を覚えていると思う。

 運転手さんは、走ってきた人のためにいちどしめたドアをあけてくれるし、バスをとめて忘れものを走ってわたしてくれる。いつも手をふってくれる子がいるからとスピードを落としてくれる。こんな運転手さんにあこがれる子どもがいたらいいなあ。4こま漫画のようになっているページもあって、自分でページをめくってお話をつくりながら読む子もいるはず。

 わたしは、表紙の絵を見ただけではわからないすてきな内容の絵本に出会い、それをだれかに伝えることを続けていこうと思います。


安井素子(保育士)

愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、生協・パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。保育・幼児教育をめぐる情報を共有するサイト「保育Lab」では、「絵本大好き!」コーナー(https://sites.google.com/site/hoikulab/home/thinkandenjoy/picturebooks)を担当している。保育園長・児童センター館長として、子どもと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けてきた。現在は執筆を中心に活動中。

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表紙の絵やとちゅうの絵がかわいいのでレンちゃんや高田さんの気分になれて本の中の世界にすいこまれるのでドキドキハラハラしておもしろかったです。(9歳)

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