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絵本の相談室

保育士によるはじめての絵本えらび 第10回

イライラしてしまうときに大人もホッとできるような絵本ないですか?

答える人:保育士 安井素子

 子育てにイライラしてしまうことってありますね。小さい子を相手に、なんでこんなに本気でイライラしてしまうのだろう? って自己嫌悪におちいってしまうことって、どのお母さんやお父さんにもあると思う。

 そんなとき、「なんでこんなにイライラしてしまうの?」と思う気持ちがあれば大丈夫。
 
 おすすめの絵本をあげるなら、言うことをきかないやんちゃな子の登場する絵本。お母さんたちといっしょに読みながら「ああ、言うことをきかないのは自分の子だけじゃないんだな」って思うとちょっとホッとする。

おすすめの「やんちゃな子が登場する本」はこれ!

 海外にもやんちゃな子が登場する絵本があるので「この時期の子どものようすは世界共通なんだよね」とお母さんたちと話しながら読んできた。
『いやだいやだ』せなけいこ 作・絵、福音館書店
『だめよ、デイビッド!』デイビッド・シャノン 作・絵、 小川仁央 訳、評論社
『だれがきめるの?』スティーナ・ヴィルセン 作、ヘレンハルメ美穂 訳、クレヨンハウス

 1才後半から2才ごろの子どもたちの「いやだ!」という時期に、「もう! いいかげんにして!」と思う気持ちはよくわかる。子どもたちの「自分で!」という気持ちにつきあうのには、忍耐も根気もいる。くつをはくときにちょっと手伝っただけで気に入らなかったり、同じ洋服にこだわって、自分で勝手に出してきて着ていたり。時間があるときならいいけれど、忙しいときにかぎって自己主張する。

なんでも「じぶんで!」と主張するお年頃。大きいかさも自分で持ちたい2才さん

 

 「いやだいやだばかりで、絵本もなかなか思うように見てくれない」っていう話になったら、赤ちゃんと過ごすお母さんの気持ちが描き出されている大人向けの本、『今日』(伊藤比呂美 訳、下田昌克 画、福音館書店)。これはニュージーランドの子育て支援施設の壁に貼ってあったという「よみ人知らずの詩」。この詩を親子の集まりで読んでみたら、涙ぐむお母さんがいた。「あー、がんばっているんだな」とそのお母さんの姿に、わたしの方がじーんとしてしまった。目の前の子どもがその子なりに大きくなっているんだったら、この詩の文のなかにあるように、「わたしはちゃーんとやったわけだ」と思っていい思う。

わかりやすい言葉で書かれたこんな育児書もある

 「イライラしてしまう」というとき、育児書を読んでみるというのもいいかも。でも、育児書ってぶあつくて字も小さくて、読む時間もないし、なかなか手に取れないっていう人もいる。そういうときにわたしがおすすめするのは『7歳までのお守りBOOK』(西野博之 著、ジャパンマシニスト社)という本。

 この本は「正しいお父さん、お母さんをがんばらない」という内容で、それがとてもやさしい言葉でつづられている。さまざまな事情を抱えた子どもたちと長年つきあってきた著者ならではの内容で、子育てに関わる人たちに手にとってほしいと思う。

 すごく悩んでいた、たっくんのお母さんに「この本読んでみる?」と渡したことがあった。後日返しにきてくれたときに、「先生、この本、自分で注文しました! 読んだらすごく気持ちが楽になったから、そばに置いておきたいと思って。タイトルに『お守り』ってあって、ほんとにその通りだなと思いました」と言ってくれました。「子育てのお守りってなかなかないよね。よかったね」なんて会話したことを覚えています。

 ネットでさまざまな子育て情報が手に入る現代。そんな時代だけど、「いま」子育てを楽しむために絵本を探すお父さんやお母さんがいると思うと、そのことにわたしがホッとする。

 そして、実は、子どもたちも自分で自分がよくわからなくて、理屈ではない世界で生きているので、そのことをわかって、どうか子どもなりの気持ちもきいてあげてほしいなあと思ったりします。

親の気持ち、子どもたちの気持ちがつまった絵本『よるくま』

 『よるくま』(酒井駒子 作・絵、偕成社)という絵本も紹介したい。この本は、ふとんに入った男の子が、昨日の夜のことを話し出すところからはじまる。

「ママ あのね……」

 たぶん、お母さんは一日忙しくて、夜になってやっと昨日のこと話せたのかなと思う。

「あのね きのうのよるね、うんとよなかに かわいいこが きたんだよ。トントンて ドアを ノックして
『あらそう。ママしらなかった。どんなこが きたのかな? おとこのこ かしら おんなのこ かしら』」

 優しくお母さんがきく。ここから男の子と、夜中にきたよるくまとのファンタジーがはじまる。

 子どもってお母さんがいなくなったらどうしようって不安になることがあると思う。保育園の登園のときに永遠の別れのように「お母さんがいい!」って大泣きする子に、保育者としてちょっと切なくなりながら抱っこしていたことが何度あっただろう。ふと目を覚ましたら、「お母さんがいない!」って心配になったりすることがどの子にも経験があるのじゃないかな。

 だから、子どもたちにこの絵本を読むと、お母さんがみつからなくてよるくまがまっくろな涙を流すと、子どもたちの顔もゆがんで悲しそうになる。でもこのあとに、流れ星がお母さんのところへみちびいてくれる。ここでよるくまのお母さんがよるくまにかける言葉に、今度は大人がジーンとしてしまう。

「ごめん ごめん。おかあさん おさかなつって おしごとしてたの」

「ああ あったかい。おまえは あったかいねえ。きょうは このまま だっこして かえろう。」

 よるくまのお母さんは、よるくまと男の子を抱っこして帰っていく。ベッドに入ったよるくまに、お母さんが優しく語りかける。

 ねむりについた子の寝顔を見ながら、やっぱり愛しく思えたり、怒ってばかりでごめんねと謝ってみたり。お母さんやお父さんは、長いこと生きてきて大人なのだけれど、親としては子どもと同じ年齢なので、うまくいかないことだってあるのはしかたない。さっちゃんのお母さんは「なかなか、こんな風に優しくきいてあげられないですね」と男の子のお母さんにあこがれるようなことを言っていたけれど、そんな風に思うことが、ちゃんと子どものことを考えているってことだと思う。

「ん? このこ、どうしたんだろう?」。遊ぶ手をとめて、『よるくま』をじっと見る(撮影:安井素子)

 お母さんを思う子どもの気持ち、子どもを思うお母さんの気持ちが、酒井駒子さんの優しい絵で描かれていて、最後に「おやすみ」と読むと、大人もホッとできるかも……。


安井素子(保育士)

愛知県に生まれる。1980年より、公立保育園の保育士として勤める。保育士歴は、40年近く。1997年から、4年間、椎名桃子のペンネームで、月刊誌「クーヨン」(クレヨンハウス)に、園での子どもたちとの日々を、エッセイにつづる。書籍に、名古屋の児童書専門店メルヘンハウスでの連載をまとめた『子どもが教えてくれました ほんとうの本のおもしろさ』(偕成社)がある。現在、保育雑誌「ピコロ」(学研)で「きょうはどの本よもうかな」、生協・パルシステムのウェブサイトで「保育士さんの絵本ノート」を連載中。保育・幼児教育をめぐる情報を共有するサイト「保育Lab」では、「絵本大好き!」コーナー(https://sites.google.com/site/hoikulab/home/thinkandenjoy/picturebooks)を担当している。保育園長・児童センター館長として、子どもと一緒に遊びながら、お母さんやお父さんの子育て相談も受けてきた。現在は執筆を中心に活動中。

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