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偕成社文庫100本ノック

第39回

宇宙戦争

『宇宙戦争』H・G・ウェルズ 作/雨沢泰 訳/佐竹美保 絵

「人びとは日々の暮らしにいそがしく追われていた。そんなときに、例えば顕微鏡におかれた一滴の水のなかで、うじゃうじゃうごめいて繁殖する微生物のようにしらべられていると、いったいだれが思うだろう。」(p12より抜粋)

 ある日突然、「変なものたち」が街にやって来たら。
 そいつらに街並みを破壊され、人が次々に黒こげになったら。
 しかも、どうやって破壊し、どうやって殺しているのか分からないのです。考えるだけで恐ろしい光景です。

 今回わたしがご紹介する「宇宙戦争」。名前なら聞いたことがある、という方は多いかもしれませんね。
 火星から突如やってきた、人類よりもうんと発達した火星人たち(発達しすぎて「人」と呼べる格好はしていないのですが。)が侵略してくるSF大作です。
 映像化も何度かされ、2005年にはスピルバーグ監督がメガホンを取り、トム・クルーズが主演をつとめました。

 ここまで読んで、この本を読んでいない方は、どうやらパニック系でぐいぐい読ませる、ドラマチックな話らしい!と思ったのではないでしょうか。
 それはもちろん本当であり、そのぐいぐい感がこの作品の素晴らしいところです。
 でも、この本には恐ろしいものがもうひとつ描かれています。それは、火星人ではなく、おろかな人間たちです。

 イギリスの田舎町の丘に「変なもの」を見つけ、なんだろうね?と噂しながら眺めたりする、なんていうのはましな方。「熱射線」なる光線で次々と建物が燃やされ、確実に侵略が始まっても、隣町の人々は変わらない生活を送り、実際に火星人を見た人が一生懸命報告しても、「なあに、そんなことあるはずがない」と一蹴してしまうのです。
 火星人やその攻撃に遭遇し、ただごとではないとすぐ気付いた書き手の主人公は、悠長な人々の様子を、冷静に語っています。その静かな調子がまた本物っぽく、恐ろしいことが起こると分かっている読者は、人々に耳を貸してもらえない恐怖につつまれます。

 遠足気分で避難をしていた人々もやがて火星人に追いつかれ、国中が大パニックに陥るわけなのですが、今度は何としても助かろうと、人々の蹴落とし合いが始まる始末。対火星人ではなく、対人間の恐怖までもが襲ってくるのです。

 最後、火星人たちがどうなるかは、読んでいただければと思うのですが、わたしの読後感はちょっと複雑でした。同じことが起きたら、自分もこんな風におろかで馬鹿になってしまうかもしれない、というモヤモヤが残るからです。でも、生々しい人間らしさをしっかり見たな、と満足した気もするのです。…まさに複雑な気持ちです。

 またそんな気持ちになるかもしれない、でもきっと時間を置いてまた読み返そう、と思う、哲学的なSF作品。その細部を感じるには、映画や簡易版よりも、絶対に「完訳版」ですよ!

(販売部 松野)

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絵の”ニッコリ”した表情が好きなようです。鳥の親子の場面が一番反応がありました。(0歳・お母さまより)

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