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偕成社文庫100本ノック

第16回(プレイバック中!)

ジョン万次郎漂流記

『ジョン万次郎漂流記』井伏鱒二 作/
宮田武彦 絵

 1827年、土佐の漁村に生まれた万次郎。家が貧しかったため、小さなころから漁船に乗り込み働いていました。15才のころ漁船が遭難し、行き着いた無人島で幸運にもアメリカ籍の船に救出され、その船の船長に見出された万次郎は、アメリカ本土で教育を受け、日本に舞い戻ったあとは政府に請われ、アメリカの事情をよく知る通訳として活躍し、アメリカとの国交を結ぶ上で重要な役割を果たすようになりました……

 ジョン万次郎のことをさっくり説明するとこんな感じです。
 普通の漂流記であれば、漁船が遭難して、アメリカの船に助けられたところでハッピー・エンド、となるのかもしれませんが、『ジョン万次郎漂流記』はむしろその後がメインのおはなしです。なのに『漂流記』ってどうなの?とはじめはおもっていました。でも、読み終わった時、それが大きな勘違いだったことに気づかされました。

 助けられてアメリカに渡ったあともとにかく波瀾万丈の毎日です。読み書きを勉強し、捕鯨船にのってみたり、ゴールドラッシュにわくカリフォルニヤで金を採掘してみたり、その間も鎖国状態にある日本にどうにかして帰れないかと手を尽くしたり…そしてようやく日本に帰ってきた万次郎は、その後も歴史と運命にほんろうされつづけます。万次郎の一生、延々と漂流しているようなものなのです……。そうか、そういうことだったのか……。
漂流人生のなかでも、自分の力で道を切り開き、チャンスをつかんでいく万次郎。「すごい人がいるから、みんなにお知らせしますよ!」というのが 伝記の原点だとおもうのですが、まさにそういう本でした。ちょっとだけ励まされました。(でも私にはちょっと無理…ともおもった)

 この本は教科書でおなじみ(私の世代だけかも)、井伏鱒二のふしぎなおはなし「山椒魚」と他3作も収録されていて、お得感満載です。ちょっと最近流され気味だなあ、ってときにはぜひどうぞ!

 ※蛇足ですが、漂流記をよむとアホウドリを採りつくす勢いで食べるシーンがよくでてきます。万次郎たちも、アホウドリを籐九郎という名でよび、その肉を食べて生きのびました。アホウドリには申し訳ないのですが、いつもすごくおいしそうなんですよね……。
「磯に打ち上げられた船板の釘で鳥の肉をさき、食べのこりの肉は石でときほぐして乾し肉にした。彼らはこの乾し肉を「石焼き」と名づけ、また趣向をかえて塩づけなどにして貯蔵することにした。」(本文より)

 私はたぶん一生食べることはない、あこがれの味です。 

(編集部 秋重)

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今日の1さつ

毎日をまじめにコツコツ生きるトガリネズミを見ていたら、自分の日常ももしかしてこんなに静かな幸せにあふれているのかも、と思えました。海に憧れて拾ったポスターを貼ってみたり、お気に入りのパン屋さんで同じパンを買ったり。駅中の雑踏やカフェでふとトガリネズミを見かけそうな気がします。(40代)

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