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たまねぎとはちみつ

最終回

冬(8)

「実は、もう半分あきらめかけてたんだ」
 それは、千春たちも予想していたことだった。
「もしも今日こうしてミホコが来てくれなかったら、話せないままになってたかもしれない」
「よかった」
 千春は心から言った。
「よかったよ、けど」
 俊太が不満そうに言い足す。
「ほとんど話してなかったよね? おじさんがあやまって、杉本さんがうなずいただけでしょ? もっとちゃんとしゃべればよかったのに」
「いいんだよ」
 おじさんがゆったりと首を振った。
「おたがい、言いたいことは伝わった。あれで十分だ」
「ほんとに?」
 俊太はまだ疑わしげにぶつぶつ言っている。
「ところで」
 おじさんが口調をあらためた。
「きみら、どうしてミホコの苗字まで知ってるんだ?」
 今度は、千春たちが話す番だった。
 なにもかも、正直に打ち明けた。おじさんを尾行したこと、公園でミホコさんが出てくるのを待ちぶせしたこと、やっと本人をつかまえて直談判したこと。特に、ミホコさんにかかわることはおじさんも気になるだろうと思い、杉本家のリビングの様子や、どんな会話をしたかも、思い出せる限り丁寧に説明した。
 おじさんは興味深げに耳をかたむけていた。全然気づかなかった、とか、きみら頭いいな、とか、度胸もある、とか、ときどき感想をもらした。
 千春と俊太がかわるがわるに話し終えると、おじさんはいきなり立ちあがった。戸惑っているふたりにむかって、深々と頭を下げる。
「ありがとう」
 おじさんは言った。
「いろいろありがとう。全部、きみたちのおかげだ」

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

100かいだてシリーズのおかげで50までしか数えられなかった娘も楽しみながら100まで数えられるようになりました。「かめのおばあちゃんはなんかい?」「100!」本に感謝です。(読者の方より)

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