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たまねぎとはちみつ

最終回

冬(8)

 春から夏にかけて、おじさんは何度か杉本邸を訪れたそうだ。娘や孫の姿も、無事に見ることができた。
「元気そうだし、幸せそうだった。月に1度か2度でも様子を見られたら、それで満足だった。でも」
 おじさんは言葉を切って、千春と俊太を等分に見た。
「でも、きみらと出会った」
 長い思い出話に聞き入っていた千春は、ぽかんとしておじさんを見つめ返した。どうしてここでわたしたちが出てくるんだろう?
「楽しかった。学校の話を聞かせてもらったり、悩み相談を受けたり、いっしょに発明品を作ったり。本当に、楽しかった」
 おじさんは目を細める。
「楽しければ楽しいほど、ミホコのことを考えずにはいられなかった」
 今の、おとなのミホコじゃないよ。子どものころのミホコだ。きみらと仲よくなったのと同じように、おれとミホコも仲よくなれたかもしれない。いや、きっとなれたはずだ。それなのに、おれがしっかりしてなかったばっかりに、その可能性をつぶしちまった。
 ミホコもなあ、小さいうちは、おれになついてくれてたんだよ。おれが日本に帰ってるあいだは、っていっても年に何回かのことだけど、ずうっとべったりだった。よくおもちゃなんかも手作りした。
「ほら、今日あの子の持ってた積み木。あれも、おれが昔ミホコのために作ったやつなんだよ」
 おじさんがなつかしげに言う。
「そうだったんだ」
 千春はつぶやいた。ミホコさん––––もはや、杉本さん、と呼ぶよりもこっちのほうがしっくりくる––––は、お父さんに作ってもらった積み木を大事に保管していたということになる。
 秋がはじまるころには、このままではいけないとおじさんは考えるようになっていた。こそこそ見ているだけではなくて、娘に直接話しかけなければ。
「きみらを見てると、自分が情けなくなってきたっていうのもある。えらそうに相談に乗ったりして、お前自身はどうなんだよってな。親とちゃんと話したほうがいいとか言っときながら、自分の娘とは正面からむきあえてないんだから」
 何度も何度も、家の前まで足を運んだ。しかし、いざとなったら、どうしても勇気が出なかった。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

おかしがたくさん、おいしそうに描かれており娘は楽しそうに読んでおりました。親の私は、前作では小さな子どもだった4羽の子がらす達が大人になり、独立していく姿に感動して涙が出ました。(2歳・お母さまより)

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