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たまねぎとはちみつ

冬(5)

 冬休みのあいだ、千春と俊太はほぼ毎日、おじさんの店に通った。杉本さんとおじさんの対面の瞬間を、見逃すわけにはいかない。
「きみら、最近ひまそうだな」
 おじさんには不思議がられたけれど、学校が休みだから、とごまかした。杉本さんのことはまだ話せない。実際に本人が現れるまでは黙っていようと、俊太とふたりで相談して決めた。
 杉本さんがいつ来るかは、わからない。というか、本当に来てくれるのかどうかもわからない。おじさんに会いにきてほしいと持ちかけた千春たちに、考えてみます、と杉本さんは答えたのだった。
「きっと来てくれるよ」
 俊太はいつものとおり、楽観的だ。
「どうしても来たくなかったら、あそこではっきり断るって」
 それも、一理ある。
 杉本さんはかなり迷っているようだった。長いこと、真剣に悩みぬいた上で、考えてみると約束してくれた。千春たちも真剣に頼んでいるということは、たぶん伝わっていたと思う。あの杉本さんなら、そんな相手を前にして、心にもないでまかせは口にしない気がする。千春が説明したお店の場所も、ちゃんとメモをとってくれていた。
 冬休みの宿題も、お店でやることにした。俊太が言い出して、千春も賛成したのだ。なにをするわけでもなく毎日お店に入りびたっていたら、そのうちおじさんもあやしみ出すかもしれない。
 千春が作業台に計算ドリルを広げてせっせと解いていると、俊太が横からのぞきこんできた。
「ちょっと見せて」
「自分でやりなよ」
「おれ、算数苦手なんだよ」
「だったら、よけいに自分でやったほうがいいんじゃないの?」
 千春は冷静に指摘した。俊太が下唇を突き出す。
「なんだよ、けち」
「なにもめてるんだよ、ふたりとも」
 おじさんが割って入った。俊太をたしなめてくれるのかと思ったのに、
「いいじゃないか、助けあえば」
 なんて言う。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

2歳のときに出会い、まだ字が読めなかったときも、この本に出てくるフレーズを覚えてしまう程、大好きです。このシリーズの3冊は、何度も読んでいて、とても大切にしています。前・後・横から見られて、細部の説明もあり、実際に車が働く姿が思い浮かぶような気がして、親子で楽しい絵本です。(3歳・ご家族より)

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