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たまねぎとはちみつ

冬(4)

 おじさんの様子がおかしかったので、ないしょで後をつけました。おじさんは変装までして、この家の前で杉本さんを待ちぶせしていました。でも、実際に杉本さんが出てきたら、そのまま逃げるように帰ってしまいました。会いたいのに声をかけられないみたいだったので、かわりにわたしたちがおじさんの気持ちを伝えにきました。
 なんて、言えない。
 ふたりで考えていたときは、すごくいい作戦だと思ったのに、こうして整理してみたら、単なるおせっかいのように思えてくる。そもそも、おじさんがこっそり様子を見にきていたと知って、杉本さんはどう感じるだろう。それこそあのドラマの主人公みたいに、なんだか気味が悪いと身がまえるかもしれない。
 うつむいたまま、千春は横目で俊太をうかがった。同じく顔をふせ、ぴくりとも動かない。
 がたん、と背後で音がした。
 3人そろって振りむくと、のんちゃんが柵の隙間から外へ手を伸ばしていた。透明なしずくが口の端から伝って、よだれかけを濡らしている。
「のんちゃんも、おやつほしい?」
 杉本さんが表情をゆるめ、立ちあがった。
「うらやましかったのかも。うちの子、食いしんぼうなの」
 柵越しに身をかがめて娘を抱きあげ、千春たちに苦笑してみせる。おだやかな顔つきに戻っていた。
 杉本さんはキッチンからのんちゃんのおやつを持ってきて、ソファにかけ直した。膝にのせられたのんちゃんは、ぷくぷくした小さな手で、ピンポン玉くらいの大きさのまるい積み木をしっかりと握りしめている。お気に入りなのだろうか。
 目が合ったので、千春は笑いかけてみた。のんちゃんは3秒ほど硬直し、ぷいとそっぽを向いて、母親の胸に顔を埋めてしまった。
「ごめんなさいね。この子、すごく人見知りで」
「何歳ですか?」
「もうじき1歳」
「ふつうのおやつも食べるんですか?」
「これは赤ちゃん用のボーロです。大好物なんだよね、のんちゃん」
 俊太が聞き、杉本さんが答える。質問する側とされる側の逆転した会話は、さっきまでのぴりぴりした空気がうそのように、なごやかだ。のんちゃんも少しは来客に慣れたのか、それとも食欲に負けたのか、前に向きなおってぽりぽりとボーロをかじっている。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

通院していた助産院でくいつきがよく、月齢の小さいころから見ていました。先日助産院最後の通院の日、たくさんある本棚の絵本からこれを探し出して、やっぱり何度も見ていたみたい。もう赤ちゃんも卒業かな?と思っていたのですが、まだまだこの絵本に魅力を感じている息子に2歳前ですが、買いました。かってよかった…。(1歳 ご家族より)

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