icon_twitter_01 icon_facebook_01 icon_youtube_01 icon_hatena_01 icon_line_01 icon_pocket_01 icon_arrow_01_r

たまねぎとはちみつ

冬(4)

 緊張しながら砂糖とミルクを入れ、ぎくしゃくとすする。熱い紅茶からは、果物みたいな甘いにおいがした。味は、正直なところよくわからない。
「よかったら、クッキーもどうぞ」
 すすめられるままに、クッキーもかじった。なにからどう話したらいいものやら、考えがまとまらない。
「いくつか質問してもいいですか?」
 杉本さんに言われ、千春はうなずいた。向こうから聞いてもらえるほうが、助かる。
「父とはどこで知りあったんですか?」
「修理屋? 父は修理屋をしているんですか?」
「いつごろから?」
「そのお店って、この近くですか?」
 千春と俊太は、交互に答えた。どれもむずかしい質問ではない。
 ひとしきり問いかけると、杉本さんは黙ってしまった。のんちゃんの言葉にならない声だけが、静かな部屋に響いている。
「あの」
 勇気を振りしぼり、千春は口を開いた。これだけでは、肝心のことが伝わらない。
「おじさんは、杉本さんに会いたがってます」
「父が、わたしに?」
 むずかしい顔で聞き返され、急に不安になった。やっぱり親子仲が悪いのだろうか。それとも、長年会っていなかったのに突然そんなことを言われて、戸惑っているだけだろうか。
「会えたら喜ぶと思います」
 俊太もおずおずと口添えした。
「もしかして」
 困っているようにも、ちょっと怒っているようにも見える、なんともいえない目をして、杉本さんは千春たちを見くらべた。
「そう伝えるように、父に頼まれたんですか?」
「いいえ」
 ふたりの返事がそろった。
「それなら、どうして?」
 今度はふたりそろって、黙りこんだ。そんなことを聞かれるなんて、予想していなかった。
 なんて答えたらいいんだろう?

1 2 3 4

バックナンバー

profile

  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵の”ニッコリ”した表情が好きなようです。鳥の親子の場面が一番反応がありました。(0歳・お母さまより)

pickup

new!新しい記事を読む