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たまねぎとはちみつ

冬(4)

 陽あたりのいいリビングは、ぽかぽかとあたたかかった。
 ドアをくぐり、向かって右のほうにソファ、左に食卓がすえられている。その奥のカウンターをへだてた向こうが、キッチンのようだ。
 杉本さんは千春たちにソファをすすめ、部屋の一隅にめぐらされた低い柵の内側に娘を座らせた。子どもの遊び場らしく、マットの上にぬいぐるみや絵本が散らばっている。のんちゃんはすさまじい音を立てておもちゃ箱をひっくり返すと、ひとりで機嫌よく遊びはじめた。
「お茶をいれてきますね」
 言い残して、杉本さんはキッチンにひっこんだ。お湯を沸かしたり食器を準備したりする音が、カウンター越しに聞こえてくる。
「広いな」
 俊太がひそひそと千春に耳打ちした。おとなでも3人は座れそうな、ゆったりした布張りのソファに腰かけて、足をぶらぶらさせている。
「広いね」
 千春のうちのリビングの、2倍はありそうだ。
 千春たちの正面には、木製のローテーブルを挟んで、ひとまわり小ぶりの、おそろいのソファが置かれている。その背後の壁は一面が棚になっていて、中央に大きなテレビがすえられ、まわりには本や置きものがならんでいた。家族の写真が入った大小のフォトフレームも、あちこちに飾られている。
「ねえ、あれ」
 中でもとりわけ大きい、テレビのすぐ上に置かれたひとつを、千春は指さした。
「お店に飾ってあるのとおんなじ写真じゃない?」
 白い産着を着た赤ん坊が、ばんざいの格好ですやすや眠っている。
「ほんとだ」
 フレームのてっぺんには、アルファベットが一文字ずつ書かれた大判のタイルが六つあしらってある。N、O、Z、O、M、I。ノゾミというのは、のんちゃんの本名だろう。千春はお店の写真を見て、おじさんの娘だとばかり思いこんでいたけれど、孫だったのか。
「お待たせしました」
 杉本さんがまるいお盆を両手で持って、ソファまでやってきた。青い花模様の入った華奢なカップとソーサーが3組、砂糖とミルクの器、それからクッキーののった平皿が、順にローテーブルに置かれた。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

描かれている町のモデルのような田舎に住んでいるわけでもないのに、読んでいると思い出す感覚や匂いがあります。こどもの頃の放課後などです。外で遊んでだりして、都会にいても自然を感じとる力が備わっていたのかなと思います。とてもすてきな感覚を思い出すことができました。(20代)

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