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たまねぎとはちみつ

冬(3)

 次の週も、そのまた次の週も、作戦は空振りに終わった。
 さらに翌週は、2学期の終業式の翌日、つまり冬休みの初日だった。4度目ともなると慣れてきて、バス停からの道もまったく迷わなかった。公園に入り、ジャングルジムの前を素通りして、特等席のベンチに座った。
 おじさんは、あれ以来ここへ来ていないようだ。12月に入ってからは、お店を空けることもほとんどなくなっている。最近は散歩に行ってないんだね、と俊太がおじさんにそれとなく探りを入れてみたら、寒くなってきたからな、師走は忙しいし、とごまかされたらしい。もうあきらめてしまったのだろうか。なんとなく、いつもの勢いがないような気もする。
 千春たちのほうは、あきらめるつもりはない。
 たとえ実験が順調に進まなくても、そこでくじけてしまっては、すぐれた発明は生まれない。そしてまた、完全に失敗というわけではなく、想定していた流れとはちがった展開が待っている場合もある。
「うう、さみ」
 びょうと音を立てて風が吹き、俊太がぶるりと体を震わせた。
「今日は夜から雪が降るらしいよ」
 出かける間際にお母さんから聞いたまま、千春は教えた。お母さんには、おじさんのところに行ってくる、と言ってある。
「まじ? 降ってこないうちに出てきてくんないかなあ」
 千春もまったく同感だった。風邪をひかないように厚着しなさいと念を押され、マフラーも手袋もつけてきたのに、それでも寒い。遊具で遊んでいる子どもも、いつもより少ない。
「ん?」
 公園の中から杉本家へ視線をずらし、千春は声をもらした。
「なんか、いつもとちがわない?」
「へ? どこが?」
「どこがってわけじゃないけど。雰囲気、かな?」
「ふんいき?」
 俊太がベンチから腰を上げた。ポケットに手をつっこんで、公園の出口へぶらぶら近づいていく。おじさんのかくれていたいちょうの大木が、葉の落ちた鋭い枝を天に向かって伸ばしている。
「待って」

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

描かれている町のモデルのような田舎に住んでいるわけでもないのに、読んでいると思い出す感覚や匂いがあります。こどもの頃の放課後などです。外で遊んでだりして、都会にいても自然を感じとる力が備わっていたのかなと思います。とてもすてきな感覚を思い出すことができました。(20代)

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