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たまねぎとはちみつ

冬(2)

 俊太が感心したように首を振った。
「自己紹介もしたほうがいいかもね。名前と、あと小学校とクラスも言う?」
「ちゃんと名乗ったほうが、信用してもらえそうだもんな。よし、ちょっと練習」
 咳ばらいをして、口調をあらためる。
「こんにちは。先週は、道を教えてもらって、ありがとうございました。僕は、市立第2小学校5年2組の和田俊太です」
 目で合図され、千春も後をひきとった。
「わたしも同じ5年2組の、長谷川千春です」
「なんでおれらがおじさんと知りあいかっていうのも、軽く説明したほうがいいか」
「そうだね」
「おれ、いや僕は、おじさんの働いている修理屋さんで自転車を直してもらったのがきっかけで、仲よくなりました」
「わたしは、泥のはねたスカートのしみぬきをしてもらいました。おじさんはいろんなことを教えてくれて、話していると楽しいです」
 会ってみたいと杉本さんに思ってもらうためにも、おじさんがいいひとだとしっかり伝えておかなければならない。
「うん、完璧」
 作戦は完璧だった。けれど、ひとつだけ問題があった。
 杉本さんが、ちっとも出てこないのだ。ジャングルジムの上は強い風が吹きつけてきてかなり寒い。硬い棒に座っているうちに、お尻も痛くなってきた。はじめは気合の入っていた俊太も、だんだん口数が少なくなってきた。
 1時間ほどねばった末に、ジャングルジムから下りたときには、ふたりとも体が冷えきっていた。俊太が先週おじさんの座っていたベンチに駆け寄っていく。
「ここ、いいな。門がばっちり見える」
「おじさん、来ないかな?」
 千春は反対側の入口を見やった。
「今日はもう来ないんじゃない? 来ても、すぐにはおれたちだってわかんないだろうし、大丈夫だよ」
 俊太は正しかった。結局、おじさんは現れなかった。そして、杉本さんも。
 さらに1時間待つうちに、空は薄紅色に染まりはじめた。子どもたちが連れだって帰っていき、公園には千春たちだけになってしまった。

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  • 瀧羽麻子

    瀧羽麻子

    1981年兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業。『うさぎパン』で第2回ダ・ヴィンチ文学賞大賞受賞。著書に『左京区七夕通東入ル』『左京区恋月橋渡ル』『左京区桃栗坂上ル』(小学館)『松ノ内家の居候』(中央公論新社)『いろは匂へど』(幻冬舎)『ぱりぱり』(実業之日本社)『サンティアゴの東 渋谷の西』(講談社)『ハローサヨコ、きみの技術に敬服するよ』(集英社)など。

    写真撮影/浅野剛

今日の1さつ

絵の”ニッコリ”した表情が好きなようです。鳥の親子の場面が一番反応がありました。(0歳・お母さまより)

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